(1)体験したビジネスマン生活―どのように神に守られたか
私は24歳で会社に入社し、それから6年目に30歳で洗礼を受け、キリスト者となった。以後60歳で定年退職するまで30年間、ビジネスマンとして働いた。従って、ビジネスマン生活の最初の6年間を未信者として、またその後の30年間をキリスト者として過ごしたことになる。ここでは、キリスト者になる前の6年間と、キリスト者になってから退職するまでの30年間に分け、それぞれのビジネスマン生活が、神の一般恩恵と特別恩恵によってどのように守られたのかを紹介したい。
入社から信仰告白まで
小松製作所、現コマツに入社して初めに配属になったのは、研究所であった。配属になった時は、それから36年間もの長きにわたって研究所に席を置き、研究開発を継続して行うようになるとは全く予想していなかった。この研究所で私は、ガスタービンエンジンの研究開発を行うようになった。そして間もなくして、そのエンジンの技術を学ぶため、会社から派遣されて米国の大学院に留学することになった。留学するなら妻と一緒の方がよいということで見合い結婚をした。それは、今から42年も前のことである。
留学するまであまり期間がないということで、急いで結婚したために交際期間が非常に短く、お互いに相手のことをよく理解できていなかった。そのせいもあってか、結婚後に妻とよく衝突をした。妻はそのことに相当悩んでいたようで、結婚後間もなくお茶の先生に誘われて近くの教会に行くようになり、そのうち私も妻と一緒に教会に行くようになった。私は、母が霊友会という新興宗教の非常に熱心な信者で、その影響を強く受けて育ったので、教会に足を運ぶことは普通の状況では困難であったと思う。しかし当時は妻とのいさかいのことで悩んでいたので、妻と一緒に教会に行ってみようとの思いが与えられた。妻は、中学生時代に通ったミッションスクールで個人的な救いの体験をしており、結婚後は折に触れ神のことを口にしていたので、そのこともまた、私の足を教会に向けさせる一因となった。初めて出席した教会の礼拝ではとても心安らぐものを覚え、神を知る素晴らしい体験の一時となった。これが、私が初めてキリスト教に触れた瞬間である。初めの印象がとても良かったせいか、以後毎週妻と教会の礼拝に出席するようになった。
教会に行き始めて約1年後に、私は妻とともに渡米した。渡米後は、キャンパスクルセードのスタッフの導きでバプテスト教会に通うようになっていた。しかしなかなか信仰告白できない私に、神は大きな試練・苦難を与えられた。渡米1年半後に長女が与えられたが、喜びも束の間、生後4カ月目に重度の心臓病で手術をしないと助からないこと、また気圧の関係で飛行機には乗せられないため、米国で手術をせざるを得ないということが分かった。この試練・苦難の時、その教会の牧師や兄弟姉妹たちが本当に親身になって励まし助けてくださった。異国の地にいる私たち若い夫婦のために祈り、色々と面倒を見てくださった教会の兄弟姉妹との素晴らしい交わりを、どれほど神に感謝したことであろうか。
結局長女は生後5カ月目に、留学先の大学病院で心臓手術を受けた。手術そのものは成功したのだが、術後のケアミスによる酸素不足のため、脳に重度の障害を受けた。そしてこの脳障害のため、数日後に呼吸困難状態となり、私たち夫婦の見ている前でとうとう呼吸停止となってしまった。医師や看護婦の懸命の手当てで息を吹き返したが、その直後に呼吸停止、そして蘇生、また呼吸停止、そして蘇生ということを何度も繰り返した。最終的に長女は命をとりとめたが、目の前でわが子の生と死を何度も体験するという苦しみは、言葉では言い表すことのできないものであった。この時、人の命は結局私たち人間にはどうすることもできないものであり、ただ神だけがそれを支配することができるお方であるということを本当に実感することができた。また、このことを通して、神が私たちの罪を贖うために御独り子のイエス・キリストを十字架に架けられた時の御苦しみと、私たちを救われたその深いご愛とを覚えることができた。この出来事を通して、私は神を救い主として受け入れ、生涯を主により頼んで生きていくことを決心した。そして1973年11月11日に、米ミネソタ州ミネアポリス市にあるオークヒル・バプテスト教会で、妻と一緒に洗礼を受ける恵みに与かった。
長女は手術の約1カ月後に退院し自宅にもどってきたが、重度の脳障害のため目も見えず口も利けず、わずかに微笑む以外はほとんど何もできない植物人間に近い状態になっていた。しかし私たち夫婦にとっては、かけがえのない娘であった。6歳の時に事故によって天に召されたが、天使のような娘とともに過ごした時間を、私たち夫婦は生涯忘れることはできない。一粒の麦となって私たち夫婦を信仰に導いてくれた娘に、心から感謝している。
大学院における学びの方は、洗礼を受けた年に、留学先の大学院の博士課程を無事修了し、学位(Ph.D.)を取得することができた。そしてコマツの元の職場へ復帰した。
このように神の一般恩恵によって、長女の病気、手術、重度の脳障害という試練・苦難の時を乗り越えることができた。そして最終的には、その試練・苦難を通して救いに導かれ、神の特別恩恵をも受ける幸いな者となることができた。また困難な状況であったにもかかわらず、無事に大学院の学びをも終了することができた。今、全てを用いて良きことに変えてくださった神に、改めて感謝している。
信仰告白から退職まで
コマツの元の職場に復帰後は定年退職するまでの30年間、その同じ職場で、建設機械というよりも熱流体技術をベースとした新しい商品や様々な分野における熱流体関連システム及び機器の研究開発に従事した。その間も本当に、色々な試練や苦難があった。しかし神の特別恩恵によって守られ、ビジネスマン生活を無事全うすることができた。そして最終的には、この会社で初めての首席技監(研究職最高位で理事)という職に導かれ、また研究部門始まって以来の、入社して定年退職するまで研究所一筋という幸いなビジネスマン人生を歩ませていただいた。
今改めてこの30年間のビジネスマン生活を振り返ってみる時、信仰には力があり、仕事において大いなる助けとなるということ、また信仰は仕事に対して実際的な効果を有するものであるということ、さらに信仰はビジネスマン生活において大いなる恵みや祝福を与えるものであるということが、最も強い印象として心に残っている。そしてそのように導いてくださった神に、改めて感謝している。
では、神の特別恩恵をもいただくことによって、私のキリスト者としてのこの30年間の研究開発生活が、どのように信仰によって助けられ、また神に守られたかを具体的に紹介していきたい。
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(参考並びに引用資料)
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・ウィリアム・ポラード(2003年)『企業の全ては人に始まる』大西央士訳、ダイヤモンド社
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門谷晥一(かどたに・かんいち)
1943年生まれ。東京大学工学部大学院修士課程卒業。米国ミネソタ州立大学工学部大学院にてPh.D.(工学博士)取得。小松製作所研究本部首席技監(役員待遇理事)などを歴任。2006年、関西聖書学院本科卒業。神奈川県厚木市にて妻と共に自宅にて教会の開拓開始。アガペコミュニティーチャーチ牧師。著書に『ビジネスマンから牧師への祝福された道―今、見えてきた大切なこと―』(イーグレープ)