ところざきりょうこ
1978年生まれ。千葉県在住。2013年、日本ホーリネス教団の教会において信仰を持つ。2018年4月1日イースターに、東埼玉バプテスト教会において、木田浩靖牧師のもとでバプテスマを受ける。結婚を機に、千葉県に移住し、日本バプテスト連盟花野井バプテスト教会に通っている。※旧姓さとうから、結婚後の姓ところざきに変更いたしました。
1978年生まれ。千葉県在住。2013年、日本ホーリネス教団の教会において信仰を持つ。2018年4月1日イースターに、東埼玉バプテスト教会において、木田浩靖牧師のもとでバプテスマを受ける。結婚を機に、千葉県に移住し、日本バプテスト連盟花野井バプテスト教会に通っている。※旧姓さとうから、結婚後の姓ところざきに変更いたしました。
朝食の支度を整えて、夫が起きてくるまでの間、花嫁道具として持ってきた古びたエレクトーンを弾いていました。AmとFの4連符を交互に弾いていると、いつしか作った歌がよみがえってくるようでした。
夫との暮らしが始まって、早1週間がたっていました。夫は、私を守ることを生きがいとし、私を幸せにすることを自分の使命と神様から受け取っていた、それは珍しいほどに、献身的な人でありました。
カーテンを下ろさなかった窓から一斉に差し込んでいた朝日のまばゆさで、目を覚ましました。寝ぼけ眼でいたところにフロントから電話があり、ご丁寧に朝食の用意が運ばれてきました。
ホテルの大きな窓から、ネオンに染まった街の光を見つめました。街はまるで、見えない炎に包まれているようでありました。この世界はもはや愛に冷えきって、真偽の分からぬ情報にまみれ、人の心を惑わし、焦がす炎が降り注いでいるようです。
今日は結婚式の前夜でした。私は式場のあるホテルが用意してくれた部屋に泊まり、明日の式を待っていました。もうお風呂も済ませ、髪の毛も丁寧に洗って乾かしました。窓からは、赤く街の明かりが灯っては、夜空を染めるほどに色づいておりました。
長く、イエス様と共にさくら色の花びらのさくら時計の針に乗って、記憶を旅してまいりました。甘く、悲しい記憶の旅に、イエス様は何度でも私を連れて行ってくださいます。幼子の私は、イエス様を見上げてほほ笑みました。
私は、間もなく60歳の定年を迎えようとしておりました。ちょうどその頃、母の連れ合いが亡くなったと知らせを受けました。もう、生きている身内のいない人だったそうで、母と私、そしてたくさんの趣味の仲間たちに見送られ、天国に旅立ったのです。
「おはよう、サビ、ブチ、ミコ、ミィ…」。朝は、猫たちが寄ってたかって「お腹がすいた」と叫ぶので、大忙しの私です。外はまだ朝日が昇る前、冷たい闇が広がっている朝の4時。
その家は、白の塗り壁に青い瓦屋根の小さな平屋でありました。庭には野草がぼうぼうに生えていて、木張りの床や柱も黒ずみ、その家の生きてきた年月を感じさせました。
私は大みそかも働いておりました。大みそかと言ったら、家族や親族が集い合い、和気あいあいと歌番組でも見て、ぜいたくな料理をつつき合い、日付の変わる頃には年越しそばと除夜の鐘、そんなにぎやかな日でしょうか。
さくら色の花びらで縁取られたさくら時計の中で、「イエス様、あの日のことは、今でもよく分からないの。ただ、あなたが来てくださったことだけは、分かっているの」そう目に涙をためる私の肩を、イエス様はそっと抱き、静かにうなずきました。
「ねえ、お兄様、天のお父様はなぜあれほどに私を打ったの?」私は悲しげな瞳で、イエス様を見上げました。イエス様もとても悲しそうな顔をして、「おまえをただ、深く愛しておられたんだよ」とほほ笑みました。
闇の深き所から、無数に触手が伸びてくるのが見えるようでありました。その触手は私のからだをまさぐり、細い足首をつかみました。触手はめりめりと私の足首にめり込んで、私の一部となっていくようでありました。
「お客さん、着きましたよ」。タクシーの後部座席で眠っていた私は、運転手が何度も呼びかける声で目を覚ましました。おぼつかない指先で、お財布をまさぐりお金を払うと、よろよろと家へ帰りました。
イエス様、今日は母があなたによってこの世の労を解かれてから、5年目の日であります。この世の人は、どんな人も類にもれず、この世を離れる時を迎えます。私にとって、天の世界への思いは強く、あなたが生きられる世界に行く日は楽しみであり…
私は今朝も、早く起き過ぎてしまいました。まだ世界には陰りがあり、太陽の光に照らされるまで、時間はたっぷりあるようです。鳥たちもまだ眠っているのでしょうが、静寂の中に虫たちの声が混じっているような気がします。
「お父様、どうして私ばかりぶつの?」そう言う私は幼子で、拳を振り上げる天のお父様を見上げていました。私は涙をぽろぽろと流しておりましたが、お父様の目も、熱い涙でうるんでいるようでした。
トモコは、一歩歩くごとに街灯の明かりに反射して道を照らしてくれる、水銀色のアスファルトを見つめていました。もうどれほど歩き続けたことでしょうか。ヒールのあるサンダルを履いてきてしまったことを後悔しました。
厚く切ったバゲットに熱々のガーリックオイルを垂らして頬張ると、なぜかため息が漏れました。‘もうあとはないぞ’ 耳元で誰かがささやきます。テーブルの上には、先日の婚約式で婚約者の母からもらった花が咲いていました。
「ずいぶん物好きがいるもんだな」。夫は新聞をめくりながら、つぶやきました。「自分の娘のことを、よくそんな言い方ができるわね」。ミチコは大根を切る手を止めて、むきになって言いました。