ところざきりょうこ
1978年生まれ。千葉県在住。2013年、日本ホーリネス教団の教会において信仰を持つ。2018年4月1日イースターに、東埼玉バプテスト教会において、木田浩靖牧師のもとでバプテスマを受ける。結婚を機に、千葉県に移住し、日本バプテスト連盟花野井バプテスト教会に通っている。※旧姓さとうから、結婚後の姓ところざきに変更いたしました。
1978年生まれ。千葉県在住。2013年、日本ホーリネス教団の教会において信仰を持つ。2018年4月1日イースターに、東埼玉バプテスト教会において、木田浩靖牧師のもとでバプテスマを受ける。結婚を機に、千葉県に移住し、日本バプテスト連盟花野井バプテスト教会に通っている。※旧姓さとうから、結婚後の姓ところざきに変更いたしました。
その街のうわさを、サダ姉は以前から聞いていました。「その街は、神を信じる、現実逃避の愚か者たちが身を寄せ合って暮らしていて、一様に貧しく苦しんでいるのに一向に神の助けも来ないバカげた街」と。それが「猫楽街」のはずでした。
マリヤはうっすらとまぶたを開けました。すると、暗がりに包まれた部屋が、白い粒子がちりばめられたかのように光り輝いていたのです。見慣れたはずの小さな部屋は、まるで神様の幕屋の中であるように神聖な空気に満ちあふれていたのです。
「いいかい、聞きなさい。人は決して見た目なんかではないんだよ。美しさというものはその人の魂からあふれ出るものなんだからね」。今日までサダ姉をよく看てくれたおばあちゃんはそう言って、サダ姉の顔の包帯に手を掛けました。
そのころ、マリヤは故郷の家のベッドの上に横たわっておりました。たった3日にすぎなかった背徳の街への旅でしたが、まだ心も体もくたくたで、起き上がることができずにいました。母親はマリヤを気遣い、白湯やそぼろ入りの白がゆを与えてくれました。
私が欲しいのは美しい心。人をねたまず、人を愛し、病んだ人や年老いた人の世話をする、花を愛するおとめの心、その潤った白桃色の唇からは、生きていることを喜ぶ歌が絶えることがない。そんなおとめになりたかった。
「わが妻よ。どうか私を見ておくれ」。その頃・・・どうしたことでしょう。悪魔がしおらしくサダ姉に懇願しているのです。サダ姉は鏡台の前に座り、鏡をじっと見つめたままほうけた顔をしておりました。「妻・・・」。そう唇を動かし、かすかに笑いました。
マリヤの心は茫然として、もはや大切なお父さんとの約束も守れないと思いました。・・・「3日で帰ってくる」と約束をして、祈りながら待っているお父さんとお母さん、愛する庭の、友達のような木々や花たちを思い出し、「ごめんね」とつぶやきました。
猫吊り通りの女主人の店は、店じまいを始めます。少年少女たちはいっせいに、店の片づけに駆り出されます。サダ姉は「しっかり働くんだよ。チリ一つ落ちていたらどんな目に合うか分かっているね」と言い捨てると、大あくびをして自分の部屋に戻りました。
「いつまで寝ているんだい?怠け者め!」。そう声がしたかと思うと、アンナはわき腹を蹴られて目を覚ましました。見上げると、この店にもう20年も暮らしているサダ姉が目を吊り上げておりました。
その晩、夕食の祈りの後でマリヤは手紙のことを父に話しました。そしていつかマリヤを助けてくれた少女、アンナに会いに行きたいと伝えました。父はしばらくうつむいて、送られてきたカードを何度も見るとため息をつきました。
「お父さん、まだ帰ってこないのかしら」。マリヤは、不安げに窓の外をのぞきました。「大丈夫よ。寄り道をして、マリヤにプレゼントでも買っているのかもしれないよ」。そう言って笑う母親は、台所でコロッケを揚げています。
不思議です。大嫌いだった朝の景色が、輝いて見えるのです。今まで花なんて見たことがなかった汚い路地に、ここにも、そこにも、小さな野花が顔を出していることに気付きました。
「あなたは誰ですか」。マリヤはうなされるようにそう言って、寝返りを打ちました。マリヤはあの朝、やっとのことで立ち上がり、自分の部屋に戻ったはいいけれど、それからもう10日間、高熱に侵され続けていたのです。
マリヤはカフェで働き口を見つけていました。カフェといっても、昼間からお酒を飲む人も少なくはなく、夜は騒がしく酔いどれ人で盛り上がり、朝方には踊り出す人もいる始末。このカフェの掃除や、泥酔する客の相手がマリヤの仕事でした。
マリヤを乗せた列車はガタゴトと、線路の上をひた走りました。幾つもの村や町を通り過ぎて、終点の「背徳の街」を目指します。新聞やニュースで「背徳の街」のことを聞かない日はありませんでした。
七色のネオンが朝まできらめくビルディングの谷間でのことでした。「ねえ、一緒に飲まない?」。サテンのロングドレスに、くれない色のショールで寒そうに肩を隠したマリヤは、道行く男と目を合わせて、甘い声でささやきます。
光のまぶしさに目を覚ましました。まぶたの裏が焼けつくような、強烈な光でした。太陽の光が雪に反射して、真夏のようにまぶしい朝が来ておりました。寝ぼけ眼のまま、コートを羽織り、ポケットにお財布を入れ、長靴を履いて外に出ました。
かおるは、通帳とにらめっこをしていました。はっつぁんのために、暖かいダウンジャケットを買ってあげようと思ったのです。しかし、生活費を切り詰めても、ダウンジャケットを買えるだけのお金は見当たりません。カレンダーを見上げてため息をつきます。
それから、幾日かたった真夜中のことでした。はっつぁんは、涙を流して「きよしこのよる」を口ずさんでおりました。公衆トイレの外灯で、はっつぁんは何日もかけて聖書を読みました。
朝起きると、すぐに三角巾で頭を縛りました。戸棚からホールコーンを取り出して、ミキサーにかけます。ミルクを少しずつ注いでは、ミキサーを動かしました。お鍋いっぱいに仕上がると、カップ付きの大きな水筒に流し込みました。