米首都ワシントンに拠点を置く迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)は2日、年次報告書「世界迫害指数2025」(英語)を発表した。それによると、キリスト教徒は昨年、世界の広範囲で難民となることを余儀なくされ、一部の国では紛争当事者やイスラム過激派によって標的にされたり、殺害されたりした。
ICCのジェフ・キング会長は報告書について、昨年の「最も悪質な信教の自由の侵害者」に焦点を当て、「キリスト教徒を標的として組織的に迫害した国々、テロ組織、政治指導者」をまとめたものだとしている。
報告書は、迫害が激しい20カ国を詳細に分析。また、昨年に浮上あるいは深刻化した世界的な傾向として、スーダンやミャンマーなどの紛争地域における大規模な難民の発生や、イスラム過激派の台頭の影響を受けたアフリカのサヘル地域諸国における状況の悪化を挙げている。
スーダンでは、2023年に国軍と準軍事組織による紛争が勃発して以来、800万人以上が難民となっている。報告書は、紛争の両当事者が「宗教施設を攻撃し、宗教指導者を殺害し、国内各地で宗教的慣習を妨害している」と指摘する。
また、ブルキナファソ、マリ、モーリタニア、ニジェールといったサヘル地域西部の国々では、各国政府の失政により昨年初頭からイスラム過激派が台頭し、国連の統計によると約330万人が難民となった。
「これらの迫害はあらゆる宗教の信者に影響を与えているが、テロ集団は標的とする暴力行為においてキリスト教徒や特定の宗教グループを選んでおり、特に彼らは難民になりやすい」
「サヘル地域全体で、テロや過激派による不安定な情勢が市民生活を混乱させ、通常の宗教的実践を危険または不可能にしている」
サヘル地域にはこの他、チャド、エリトリア、ガンビア、ギニアビサウ、ナイジェリア、セネガル、スーダンが含まれる。
ナイジェリアでは北部を中心に、キリスト教徒の村落が「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)や急進化したフラニ族の武装勢力など、イスラム過激派による攻撃を受けることが多く、近年では数千人が命を落としている。
また、コンゴ民主共和国(旧ザイール)では、昨年1月だけで35万8千人が難民になったとし、過激派組織「イスラム国」(IS)に関係する武力勢力「民主同盟軍」(ADF)に不安定化の一因があるとしている。
「コンゴ民主共和国ではキリスト教徒が多数派であることから、キリスト教徒に対する攻撃の一部は宗教とは無関係である可能性があるが、ADFは教会や教会指導者を標的にしていることで知られている」
ICCは、コンゴ民主共和国とサヘル地域西部の5カ国(モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド)を、「信仰を理由にキリスト教徒が日常的に拷問されたり殺害されたりしている地域」として「レッドゾーン」に指定。ナイジェリア、ソマリア、エリトリア、アフガニスタン、北朝鮮、パキスタンも含め計12カ国を「レッドゾーン」に指定した。
中国、インド、イラン、サウジアラビアの4カ国は、政府が「キリスト教徒の権利を厳しく弾圧している国」として「オレンジゾーン」に指定。アゼルバイジャン、エジプト、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ニカラグア、ロシア、ベトナムの8カ国は、「キリスト教徒が攻撃、逮捕、弾圧に耐えている地域」として「イエローゾーン」に指定した。
一方、信教の自由を巡る状況において昨年見られた前向きな点として、「抑圧に対する民衆の不満」を挙げた。
まず、昨年春にインドで行われた総選挙で、与党のインド人民党(BJP)が「支持を大幅に減らし」、その結果「政権を維持するために、複数の政党と連立を組むことを余儀なくされた」点を取り上げた。
報告書はBJPを、「真のインド人はヒンズー教徒であるという、キリスト教徒や宗教的少数派を必然的に二流の地位におとしめる見解に基づき、インドのアイデンティティーを狭い視点で捉えていることで知られる」とし、インドで「最も害を及ぼしている」団体の一つと指摘。「選挙(結果)の長期的な影響はまだ十分に理解されていない」としつつも、「世俗色が強い連立パートナーによって、BJPの民族主義的政策は妨げられるだろう」との見通しを示した。
また、21年のクーデター後、国軍による軍事政権が続いているミャンマーについても、昨年生じた変化を次のように指摘した。
「軍事政権の暴力によりミャンマーの多くの民族的・宗教的少数派が団結し、24年には反軍政派が多くの印象的な軍事的勝利を収めた。ミャンマー特別諮問委員会の調査によると、反軍政派民兵の活動により、強固な国軍支配地域は17パーセント以下まで減少した」
その他、イランについても、昨年の「マスウード・ペゼシュキヤーン大統領など比較的穏健な政治家の当選」を民衆による蜂起として挙げ、既存政権の支配が絶対的なものではないことを示唆したと指摘した。