2022年7月8日に安倍晋三元首相が暗殺されてから、メディアやSNSを通して世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への批判が高まり、宗教法人としての解散命令が請求されている現状にある。早ければ24年度内にも、東京地裁の判断が出る可能性があるとされており、その結果が注目されている。このような現状をより深く理解するため、今、読んでおきたい3冊の本を紹介する。
島薗進編『これだけは知っておきたい統一教会問題』(東洋経済新報社、2023年8月)
宗教学者の島薗進氏の編集による『これだけは知っておきたい統一教会問題』は、日本の旧統一教会の事実関係とは少し距離を取り、日本と韓国の歴史的文脈の中で、旧統一教会を捉え直してみようという論文集である。旧統一教会を、その源流、日韓の宗教弾圧の文脈、政界工作、被害、2世問題など、現代に至るまでの歴史的文脈でたどっている。
特に宗教社会学が専門の中西尋子(ひろこ)氏による論文は、韓国に渡った日本人女性信者の分析を行っており、私たちが合同結婚式に対して抱いている一般のイメージを大きく転換させてくれる。旧統一教会がどのような歴史的・社会的文脈の中で批判の対象となっているのかを知るためには、この一冊で足りるといっても過言ではない。
樋田毅著『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社、2024年8月)
ジャーナリストの樋田毅氏による『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』は、1992年から99年まで旧統一教会の広報部長を務めた大江益夫氏の生い立ちから、旧統一教会との出会い、広報部長に上り詰めるまで、そしてその後の葛藤を告白している書である。
一言でいえば、旧統一教会と共に歩んだ人生とはどのようなものだったのかを理解させてくれる一冊である。感想を言うと、かなり「無茶」をしてきた人生ということになるだろう。特に早稲田大学時代に、川口記念セミナーハウスが出資者の意向を裏切る形で旧統一教会の物件として登記されていく闘争の過程は、読んでいて胸が痛んだ。
大江氏が人生の随所でなしていく「決断」が、どういう「懺悔」を生んでいくかがよく分かる。もっとも本書に関しては、旧統一教会の教理研究院が長文の反論を発表しており、本書と併せて読むと、問題点を立体的に理解できるだろう。
魚谷俊輔著『反証 櫻井義秀・中西尋子著「統一教会」』(世界日報社、2024年11月)
魚谷俊輔氏の『反証 櫻井義秀・中西尋子著「統一教会」』は、北海道大学教授の櫻井氏と前述の中西氏による10年以上前の著作『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』に対する反論書である。反論書の体裁を取っているが、旧統一教会問題全般に対する弁論書といえるだろう。魚谷氏は、旧統一教会の友好団体とされる複数の団体で事務総長を務めている人物である。
一貫して「マインドコントロール」や「洗脳」は科学的な概念として存在しない、という立場で貫かれており、私たちが安易な定義付けのまま、これらの用語を使用し続けてきたことを徹底して批判している。また、一部の旧統一教会反対派の牧師による「拉致監禁」(反対側の用語では「保護説得」)が犯罪に当たるという点でも批判を展開している。この他、旧統一教会の教えは仏教などとも親和的であり、一般のキリスト教にない特色があるということも明示している。
その筆致は説得的である。しかし、疑問点も少なくない。例えば、正体を隠した伝道活動は、コンプライアンスの立場からしないよう指導されているというが、一部では今でも行われているという声が上がっている。全体としてまとまった旧統一教会側の反論が書かれているため、事典的に利用できる書である。皮肉なことではあるが、旧統一教会に対する批判を知るには「便利」であり、今後の旧統一教会対策では避けて通れない一冊となるだろう。
総じて、反対側が、2009年に旧統一教会が出した「コンプライアンス宣言」より前の事件に集中して批判を展開しているのに対し、旧統一教会側は、宣言以降は「変化」していると弁明する傾向にある。私たちは、旧統一教会が過去に行った罪を清算できているのか(あるいはしようとしているのか)、また旧統一教会の内実は本当に「変化」したのかを、これらの著作をよく読み判断していくことが求められている。
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