7月8日に起きた安倍晋三元首相の襲撃事件以後、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題が再度クローズアップされるようになりました。関係書籍も、新刊や再刊が相次いでいます。ただ、そのほとんどは、この問題に関わってきた統一教会外の人たちによるものであると思います。
そんな折に出版された本書は、約20年間、統一教会に入信していた元信者による手記です。あとがきによると、著者がブログ(現在は閉鎖)でつづっていたものを再編集して書籍化したものだということです。ご自身の体験が基になっていますので、統一教会の「実態」を赤裸々に明かした内容になっています。
また、統一教会の関連用語や法律用語、そして韓国語などが、脚注として随所で説明されており、大変分かりやすい作りになっています。このような書籍を上梓(じょうし)することは、精神的にも大変であったと思いますが、著者の勇気に拍手を送りたいと思います。
本編は、著者が入信した高校生の頃のことから始まり、一度目の祝福結婚(統一教会の合同結婚式での結婚)、日本での結婚生活、出産、離婚、二度目の祝福結婚、韓国での結婚生活、出産、脱会と祝福結婚の破棄、帰国と帰国後の生活――といった順で記されています。
帰国後には、大学の心理療法室に通ったことが書かれています。私はこのことが、著者を心の整理に向かわせ、ブログをつづる原点になったのではないかと思いました。
著者は、母親を「霊の親」(統一教会用語で自分を信仰に導いた人)として入信したとのことですが、心理療法室のカウンセラーに、「あなたは、いつまでお母さんのせいにするつもりですか」と言われたそうです。そして、この言葉を反芻(はんすう)することによって、「恨む」ことをきっぱりと捨てることを決意したそうです。
こうした誰かや何かを「恨む」ことからの解放は、カルトの被害者だけでなく、誰にも必要なことであると思えました。そういった点で、「大変な経験をしたのだなあ」という視点のみで読むものではなく、読者一人一人にも得るものがある書籍だと思わされました。
本編では、入信後、1995年の合同結婚式に参加して、日本で結婚生活を送ったことが、1~3章に記されています。そこでは、やがて夫が暴力を振るうようになり、離婚に至ったいきさつがつづられています。
4~6章には、2度目の祝福結婚と韓国での結婚生活が記されています。著者の人生における最もハードな経験が、この時期ではないかと思わされました。2番目の夫によって作られた借金や、田舎のトイレのない家での生活などが印象的でした。
しかし、厳しい半生ではあったけれども、2つの命が与えられ、今もその2人の子どもと暮らしていることを喜びとしておられるように読み取りました。
また、韓国滞在中に出会ったハラボジ(おじいさん)、ハルモニ(おばあさん)、オンニ(お姉さん、以上の3人は統一教会とは無関係)との交流からは、その中にある温かさが伝わってきました。困難の中でも、外国人韓国語スピーチ大会で優勝したり、KBS(韓国の公共放送)ののど自慢コンクールで奨励賞を取ったりしたというエピソードからは、著者にとっての良い意味での「がんばり」が伝わってきて、ほっこりもしました。
7章には、文鮮明(ムン・ソンミョン、日本では通常ブン・センメイと呼ばれている)の死によって洗脳が解け、日本に帰国することを決意し、サスペンスドラマのように、2人の子どもを連れて日本に帰国したことが記されています。8~9章では帰国後の生活が伝えられています。
統一教会問題は、これからもさまざまな課題が出てくると思いますが、本書を読むことによって、多くの人、特に政治に携わる人が、この問題の実態を理解してくださればと思わされました。また、韓国では今もなお、かつての著者と同じような境遇に置かれている人たちがいるのではないかということにも思いをはせました。
なお、表記に関しては、日本のキリスト教会では「統一協会」とすることが多く、一般報道では「旧」が付いていることがほとんどですが、本書では「統一教会」としていることと、韓国では「トンイルギョ(統一教)」といわれていることに鑑み、「統一教会」とさせていただきました。
■ 冠木結心著『カルトの花嫁―宗教二世 洗脳から抜け出すまでの20年』(合同出版、2022年11月)
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