世界200以上の国・地域から約5千人のキリスト教指導者が集まり、韓国・仁川(インチョン)で開催された第4回ローザンヌ世界宣教会議が、1週間の日程を終え9月28日に閉幕した。最終日は「世界の主要地域における躍動的な宣教ムーブメントを通して、地の果てまで成される神の宣教」をテーマに、現在世界における福音派の人口の大部分を占める南北アメリカ、アフリカ、アジアの各大陸から、講演者が登壇してメッセージを伝えた。
大胆に福音を伝える勇気を
南米での宣教経験が豊富で、現在はイスラム地域への宣教を行う約180団体が加盟する世界的ネットワーク「ビジョン5:9」の会長を務めるアラン・マタモロス氏は、使徒の働きからメッセージを伝えた。
使徒の働きには、不可能に見える状況でも福音が人々に伝えられていったことが記録されている。ペテロの説教により、一度に3千人が信仰を持つようになる出来事が起きる一方、迫害により殉教者も出た。しかし神は、その状況さえ用い、サマリヤなどの地域にキリスト者を送り、各地で教会は増え、そして今、地の果てにまで教会が立てられている。
マタモロス氏は、福音は多重文化的(マルチカルチャー)であると同時に、異文化間的(インターカルチャー)でもあると指摘。また、唯一の救い主を伝える点では、既存の文化にあらがう対抗文化的(カウンターカルチャー)でもあると述べた。
また、アマゾンの原住民を対象とした宣教活動に従事した経験のあるマタモロス氏は、過去何世代にもわたって敵対関係にあったゾロ族とスルイ族のエピソードを分かち合った。ある集会に、キリスト者となった両部族の出身者が参加した。集会の主催者は、両部族の歴史的な関係性を考慮して別々の部屋に割り振ったが、同じ部屋にしてほしいという申し出が本人たちからあったという。その中の一人は、「私はイエスの故に共に賛美し、歌うのです」と話し、両部族の出身者が共に賛美したという。
使徒の働きの最後には、パウロが大胆に、少しも妨げられることなく神の国を宣(の)べ伝え、主イエス・キリストのことを教えたことが伝えられている。マタモロス氏は、宣教が難しく、不可能に見えるときも、パウロのように大胆に福音を伝える勇気が必要だと強調した。また、イエスの名を語ることが大切であり、戦略は大切であるものの、神が「行け」と言われるなら、理性や論理性に反してでも宣教に行く必要がある場合もあると語った。
若い世代に必要な4つのもの
米サドルバック教会を創立して長年にわたって主任牧師を務め、現在は世界宣教ムーブメント「フィニッシング・ザ・タスク」の代表をしているリック・ウォレン氏は、「このタスク(大宣教命令)をやり遂げるために、何をしなければならないのか」と題して語った。
ウォレン氏は初め、40歳未満の若い世代に対し、これまでさまざまな世代と共に働いてきた経験から、「皆さんには、この大宣教命令のタスクをやり遂げるポテンシャルがあると思うほど、感心しています」と言い、その可能性を強調した。
一方、この使命を最後までやり遂げるためには、必要なものが4つあるとし、メンター、モデル、パートナー、友人を挙げた。そして、会場にいる40歳以上の世代を指して、「彼らこそ、皆さんが師事し、学びを得るべき人たちです」と、若い世代のメンターやモデルになる人たちであることを示した。
また、20歳の時に第1回ローザンヌ世界宣教会議に参加して以来、50年にわたりローザンヌ運動と共に歩んできたウォレン氏にとって、若い世代、年を重ねた世代の双方が「良き終わり」を迎えることが、自身の祈りだとも語った。ウォレン氏自身、大宣教命令のために人生をささげるのと同時に、教会の若きリーダーたちがその使命を成し遂げる手助けもしてきたとし、「皆さんにはそれらを2つともしてほしいのです」と呼びかけた。
そして、1週間にわたった第4回ローザンヌ世界宣教会議の内容を踏まえてまとめたという、大宣教命令を達成するための10の行動ステップについて、プリントを用いながら語った。
大宣教命令を達成するための10の行動ステップ
1. 神の力を祈り求めなければならない
(使徒1:14、使徒2:42、1コリント4:20、使徒1:8)
ウォレン氏は、使徒の働きには多くの祈りが書かれているとし、「祈りと神の力との間には、直接的な関係があります。多く祈れば多くの力を得、少なく祈れば得る力も少なく、祈りがなければ力もありません」と伝えた。
2. 全ての人のために神の言葉を翻訳しなければならない
(使徒2:4、使徒2:5)
「神の言葉は生きています。神の言葉は人生に変革をもたらします。しかし、私たちは全ての人に理解できる言葉に整えなければなりません。ですから私たちは、神の言葉を全ての人のために翻訳するのです」。ウォレン氏は、世界にはいまだに母語で聖書を読めない人が何千万人もいることを指摘。聖書の翻訳が、大宣教命令の達成のために取るべき重要なステップであることを語った。
3. 多様性を認めなければならない
(使徒:2:11)
3つ目に挙げたのは多様性。ウォレン氏は、多様性を「誇りとし、愛してください」と呼びかけ、「何よりもまず、多様性は神の考えだからです。神は私たちを異なるように創造されました。多様性が嫌いだという人は、要するに『神様、あなたは間違っていますよ。なぜみんなを私のように創造しなかったのですか』と言っているのと同じです」と伝えた。
多様性の否定は「ごまかしのプライド」だとし、多様性は教会の力だと教えるべきだと強調。あらゆる種類の人々に福音を伝えるためには、あらゆる種類の教会が必要だとし、「教会の中で、神は一致することを望んでおられます。均一を望んでいるのではありません。一致に至る唯一の道は、多様性を愛することです」と伝えた。
4. 全ての信徒が福音を伝えるよう訓練しなければならない
(使徒2:17~18)
ウォレン氏は、サドルバック教会が2003年に始めた全信徒参加型のプロジェクト「ピースプラン」を紹介。教会の全ての信徒が宣教の現場に赴き、教会開拓を目指すもので、イエスが行った5つのこと――福音を宣べ伝え(Proclaim)、全ての信徒を備え(Equip)、貧困・病気・教育機会の欠乏などの苦しみを和らげ(Alleviate)、祈りの中で戦い(Contend)、教会を建て上げる(Establish)――の頭文字からピース(PEACE)と名付けたことを話した。
このプロジェクトにより、サドルバック教会は7年間で2万6869人の信徒を、世界197の国と地域に教会開拓のために送り出したという。「しかし、この働きは普通の人たちによってなされたのです」とウォレン氏。「皆さんの教会は、世界中に宣教師を送ることができます。皆さんが動員しようと思えばできるのです。皆さんの教会で、聴衆のようだった人たちが兵士のように、傍観者が参加者に、消費者が貢献者に変わるよう、皆さんを助けるのが私の目標です」と伝えた。
5. 神の言葉を自分自身に適用しなければならない
(使徒2:42、使徒2:12、使徒2:37、マタイ28:20、ヤコブ1:22、ヨハネ13:17、使徒2:40~41)
「イエスは『あなたがたも行って、同じようにしなさい』と言われました。ヤコブは『みことばを行う人になりなさい』と言いました」とウォレン氏。イエスは大宣教命令で、「私の命じることを全て実行するように教えなさい」と言っており、「私の命じることを全て知るように教えなさい」とは言っていないと指摘。「ここに、今日の教会の問題があります。私たちは頭で知っている内容に比べると、わずかしかそれを実践していないのです」と語った。
その上で、使徒の働き2章にあるペテロの説教を取り上げた。ここでは人々が、さまざまな国の言葉で語り出したイエスの弟子たちの姿を見て、これは何を意味するのか、また何をすべきかをペテロに尋ねた。これに対しペテロは、聖霊が降ったのだと説明し、悔い改め、洗礼を受けるべきであることを人々に伝え、説教を終えている。
ウォレン氏は、「これが説教のあるべき姿」だと強調。多くの説教は、聖書に書かれていることが「何を意味するか」しか語っていないとし、「何をすべきか」まで伝え、人々に御言葉の実行者となるよう教える必要性を語った。
6. この世に対し愛の模範とならなければならない
(使徒2:42)
「愛はどんな時も人を引き付けます。私の伝道の定義は、『皆さんの心と人々の心の間に、皆さんが愛の橋をかけ、イエスがそれを渡る』というものです。成長する教会は愛します。愛する教会は成長します」。ウォレン氏は、失われた人々を真に愛する教会があれば、われ先にと人々が押し寄せるはずだと語った。また、既に知っている人だけを愛し、見ず知らずの人を愛するために出ていかないのであれば、愛する教会とはいえないと話した。
7. 家を用いることに回帰しなければならない
(使徒2:46)
サドルバック教会は創立から13年間、会堂を持たず、さまざまな施設を借りて礼拝をしてきたが、その間に毎週1万人以上が集う教会へと成長した。「教会を成長させるために建物を所有する必要はないことを証明したかった」とウォレン氏。「教会が成長するために建物が必要だなんて、私に言わないでください。最速の成長は、家(の教会)を通して成されたのです。私たちはそこに回帰するのです」と話した。
米ロサンゼルス・タイムズ紙の1992年の記事(英語)には、サドルバック教会が最初の会堂を得るまでの13年間、カリフォルニア州オレンジ郡にある57カ所の施設を借りて礼拝をしてきた軌跡が書かれている。ウォレン氏は当時「教会は建物ではなく、人」だと語っていた。
8. 賛美が喜びに満ちた証しにならなければならない
(使徒2:26、使徒2:28、使徒2:46~47)
賛美に関しては、それが喜びに満ちたものになっているとき、「未信者の人たちを、まるで彼らがコンサートに行きたいと思うように引き付けるものとなる」と話した。
9. 共に働くために全てのものを共有しなければならない
(使徒2:44)
使徒の働き2章44節に「信者となった人々はみな一つになって、一切の物を共有し」と記録されている理由について、「皆さんもまた実際に互いに助け合うよう教えるためです」とウォレン氏。「これこそ本当のコラボレーション(協力)です。コラボレート(Collaborate)とは、コ・レイバー(Co-labor、共に取り組む)という意味です」と伝えた。
10. 金銭的な犠牲を払わなければならない
(使徒2:45)
最後に、使徒の働き2章45節に「財産や所有物を売っては、それぞれの必要に応じて、皆に分配していた」と書かれていることに触れ、金銭的な分かち合いの必要性について伝えた。
限られた時間の中、ウォレン氏は10の行動ステップを口早に伝えつつ、「これらのことは、皆さん全員が、ローザンヌ世界宣教会議から家に帰った後、明日から実行できることです。皆さん、愛しています。神様の祝福がありますように」と結んだ。
この後、米ゴードン・コンウェル神学校准教授のウナ・チョー氏が、アジアの宣教ムーブメントについて、少数言語の識字率向上を支援するキリスト教団体「国際SIL」代表のミシェル・ケンモグネ氏が、アフリカの宣教ムーブメントについて話した。
美しさを求めるミツバチ、汚れを求めるハエ
続いて、ローザンヌ運動総裁のマイケル・オー氏が閉会のメッセージを伝えた。
「キリストの最後の言葉は、『そこにとどまりなさい』ではありません。『あなたがたは行って、あらゆる国の人々を弟子としなさい』です」。オー氏は、世界にはキリスト者の知人を一人も持たない人が34億人もいるとし、「これは一部の人だけの責任ではなく、私たち全員の責任なのです」と強調。大宣教命令は、全てのキリスト者が負う集団的責任であることを伝えた。
「私たちの誰もが、神の御前で『知らなかった』と言い訳することはできません。大宣教命令が教会に与えられていることを信じ、皆さんが教会の一員であるならば、聖霊は皆さんの中で働いておられます。これは大宣教命令のためであり、私たちはこの責任を共有することに全面的に投資すべきなのです」
また、キリスト者の全ての働きは、「イエス・キリストの健全で調整された体のようなもの」だとし、誰も「私はあなたを必要としていない」とは言えないと強調。それぞれが神の目的の一部であり、神はそれぞれを通して驚くべき御業を成し遂げられると話した。
また、この21世紀にあって、協力のための強力なツールとして、デジタル空間が与えられていることを強調。「私たちは、キリストの体全体のために、より効果的になるまで満足することはできません」と伝えた。
その上で、ミツバチとハエを例えに用いて語った。
「ミツバチは美しい庭の花を求めますが、ハエは汚物と死体を求めます。ハエは、自分が目にする不潔なもの全てを列挙するかもしれません。しかし、花の場所を聞かれても、『そんなものは見たことがない』と答えるでしょう。一方、ミツバチに汚物の場所を聞くと、『そんなものは見たことがない』と答え、さまざまな美しい花を挙げ、その花がどこにあるのかを教えてくれるでしょう」
「世界の教会においても、またこの世界会議においても、ある人はハエのように振る舞い、たくさんの花の上を飛んでいるにもかかわらず、その美しさを見逃しているかもしれません。あるいは、ミツバチのように美を求め、その一部となることもできます。全ての汚れたものに対して、私たちはすぐに悔い改めることができます。私たちが皆、教会の美しさ、神の御言葉の美しさ、そして世界の美しさを求めることができますように」
「あなたはミツバチになりますか、それともハエになりますか。キリストの体全体の美しさを求めましょう。正直に言いましょう。キリストの体全体を、神の庭のように、よりグローバルで、より美しいものとして示しましょう」
参加者全員で聖餐式、「共同行動決意表明」に署名
この後、今大会の共同組織委員長を務めた韓国ローザンヌ委員会委員長のイ・ジェンフン氏(オンヌリ教会主任牧師)と、日本ローザンヌ委員会委員長で宣教学者の倉沢正則氏(元東京基督教大学学長)が共同で司式する聖餐式が行われた。
また、参加者は各テーブルに配布された「共同行動決意表明」に署名した。署名欄は8人分用意されており、そのうち4人分にはオー氏らローザンヌ運動の責任者4人の署名が書かれており、空欄になっている残り4人分に、1週間にわたってテーブルを共にした参加者が署名した。
決意表明は、「私は、世界の教会がキリストの体として共にある方がより良いと信じ、より深い関係を結ぶことを切望し、相乗効果と協力のための機会を模索します」という前文の下、以下の6項目について決意を表明している。
- 大宣教命令を達成するために、ギャップを埋め、機会を捉えることによって、大宣教命令に意図的に応答すると決意します。
- 地域性の中で福音が咲き誇るという共通目標を掲げ、リーダーたちと関係構築と一致を追い求めると決意します。
- 他者を尊重し、積極的に重複を除き、不連携を退け、他者と協力し、世界の教会が直面するさまざまな挑戦に対処すると決意します。
- これらのことを、この運動を世代から世代へと引き継ぐことになる次世代のリーダーを育てることに焦点を当てながら行うと決意します。
- 既に進行中の協力的なイニシアチブを認知し、これらのイニシアチブ、ネットワーク、コミュニティーの触媒として人々を動員し、私たちの周りにあるギャップを埋めるための機会をつかむと決意します。
- 地域的な文脈の中で、共同行動のチームを始める機会を模索すると決意します。
その上で最後は、「このことのために、私たちを力づけてくださる、神の目的・力・恵みにより頼みます」と結んでいる。