西南学院大学大学院1年生の鈴木結生(ゆうい)さん(23)が15日、『ゲーテはすべてを言った』で第172回芥川賞を受賞した。父は牧師で、幼少期は教会で育ったという。
産経新聞によると、父が持つ神学書など、多くの本に囲まれて育った。母は鈴木さんがおなかの中にいるときから絵本の読み聞かせをしてくれたという。鈴木さんは同紙に「文学的原体験は聖書。聖書を読むことが本を読むことにつながった。生まれたときから本は身近で、それが自然に書くことにつながった」と話している。
2001年に福岡県で生まれるが、毎日新聞によると、1歳になる前、父が日本バプテスト連盟郡山コスモス通りキリスト教会に赴任したことで、福島県郡山市に家族で移住。この教会の2階で育った。東日本大震災と福島第1原発事故により埼玉県に一時避難した時期を除き、幼少期はこの教会で、家族も同然な信徒らに囲まれて過ごした。
被災したのは小学3年生の時。朝日新聞によると、支援に回る父に連れられ、聖書や自作の漫画を大きなバッグに詰め込み、岩手県や宮城県の避難所を巡った。小学6年生の時に福岡県に引っ越し、東北の思い出を残したいと、初めて小説を書いた。
受賞作の『ゲーテはすべてを言った』は、ドイツの文豪ゲーテの研究者である男性教授が、自分の知らないゲーテの言葉と出会い、その原典を探し求める物語。季刊小説誌「小説トリッパー」(2024年秋季号)に掲載された。
鈴木さんは同じく大学院1年生の時、同誌(24年春季号)掲載の短編小説「人にはどれほどの本がいるか」で、第10回林芙美子(ふみこ)文学賞佳作を受賞し、小説家としてデビュー。『ゲーテはすべてを言った』は同賞受賞後の第1作に当たる。
鈴木さんが在籍するのは、西南学院大学大学院の外国語学研究科。同大の今井尚生(なおき)学長は、「現役での本学大学院生による芥川賞の受賞を大変うれしく思っています」とし、「在学生のみならず、卒業生、教職員にとっても大いなる励みになることでしょう。今後ますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます」と祝福の言葉を贈った。
『ゲーテはすべてを言った』は、受賞発表当日の15日に朝日新聞出版から単行本として発売された。同出版の公式note(ノート)では現在、作品の冒頭部分が特別公開されている。