アジアキリスト教病院協会(ACHA)の第27回総会が、昨年11月7日~9日の3日間にわたり、沖縄のホテルコレクティブ(那覇市)を主会場にして開催された。テーマは「世界的危機におけるキリスト教病院の役割―経済危機、自然災害、世俗主義」。総会の大会長を務めたオリブ山病院(那覇市)理事長で牧師の田頭真一氏によるレポート(全3回)の第1回。
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アジアキリスト教病院協会(ACHA)は、淀川キリスト教病院(大阪市)の白方誠彌(せいや)名誉院長の呼びかけにより、1993年に日韓台キリスト教病院最高経営者会議として始まった。2012年に現在のACHAに改称し、広くアジア諸国のキリスト教病院関係者が参加するようになった。沖縄での総会開催は2014年以来10年ぶりである。
オープニングセレモニーでは、今総会の大会長として筆者が開会祈祷をささげた後、日本キリスト教病院協会(JCHA)会長の宮城航一氏が歓迎のあいさつを述べた。
宮城氏は、昨今の世界情勢を踏まえ、キリストの愛を表すキリスト教病院の役割の大切さを語った。また、世界情勢が悪化する中、総会を無事開催できたことについて、参加者へ感謝を述べるとともに、神への感謝をささげた。同時にACHAのこれまでの歩みを振り返り、今回と同じ沖縄で第19回総会が開かれた2014年の世界情勢を回顧し、当時も決して平和ではなかったことに思いをはせた。
歴史的な視点からも語り、沖縄とタイ、台湾、韓国との歴史的交流、琉球王朝とタイのアユタヤ王朝との交易、日本が関わった戦争の歴史を語った。太平洋戦争での沖縄とアジア諸国の関係に触れ、戦争犠牲者への追悼と和解の必要性を訴えた。その上で、現代の課題と視点をもって台湾有事や沖縄の安全保障問題について懸念を表明。沖縄民間人の犠牲が考慮されていない現状への問題提起も行った。
太平洋戦争時代の沖縄と周辺諸国との歴史的背景を指摘し、これらの国々との和解と友好の必要性を強調した。その際、聖書の教え(ヤコブ2章26節)を引用し、信仰を具体的な行動で示す必要性を訴えた。
その上で、医療の本質は、イエス・キリストの愛と人間の尊厳を尊重することの実践であり、それが平和に貢献すると提言した。最後には、キリスト教病院の役割を考え、グローバルな課題にどう応えるべきかを模索することへの期待を示し、今総会が信仰と祝福を共有する場になることを願うと述べた。
ACHAの創設者である白方氏は、文章で祝辞を寄せた。
2012年より日韓台キリスト教病院最高経営者会議がアジアキリスト教病院協会へと発展しました。日本では、2014年、19回総会を沖縄でオリブ山病院、2017年、22回総会を淀川キリスト教病院が担当しました。2019年には24回総会をバンコク・クリスチャン病院が担当されました。従来の日韓台キリスト教病院以外で初めての担当であり画期的な出来事でした。27回総会は、再びオリブ山病院が担当されて開催されることを、心よりのお慶び申しあげます。
第2次世界大戦前後に、アジアの多くの国々が欧米のミッションの援助を受けました。個人的なことで恐縮ですが、淀川キリスト教病院は、まさに米国長老教会の援助によって、当時最も医療事情の悪かった地域に、大きな恩恵を与えていただきました。私自身、第2次世界大戦がどれ程悲惨であったかを身をもって体験しましたが、今再び絶対避けねばならない第3次世界大戦の前夜にあるような不吉な予感さえ覚えます。世界全体を見れば、まだまだ貧困の中に放置されている人々が多くおられ、医療支援の必要性も極めて高いのが現状であります。
今回の主題である「世界的危機におけるキリスト教病院の役割―経済危機、自然災害、世俗主義」について十分な討議がなされ、さらに、主にある良き交流がありますようにお祈りいたします。最後に、この会を意義あるものとするために全力を傾注された、オリブ山病院・田頭真一理事長に心より敬意と感謝を申し上げます。
続けて、前回総会の開催地である韓国から日本への引継ぎ式が行われた。さらに、2023年に宣教地のベトナム中部ダナンで召されたSAM病院(韓国)ミッションディレクターのパク・サンウン氏の追悼式が行われた。
開会礼拝では、イエス・キリストの再臨を待ち望みつつ、自らの十字架を背負って歩むキリスト者の決意を示す主題賛美「マラナタ」を参加者一同で歌った。
説教は、オリブ山病院創設理事で牧師の渡真利彦文氏が取り次ぎ、復活の希望を持って今を忠実に生きることを、主題聖句のコリント人への手紙第二15章58節に沿いながら語った。
聖書は復活について3つのことを教えている。第一に、キリストの復活は福音の中心であり、信仰の基盤であること。第二に、キリストの復活は、私たちにも起こる復活の最初の実りであり、信じる者の希望の源であること。そして第三に、私たちの復活がどのように起こるかを示し、朽ちる体が朽ちない栄光の体に変えられる約束を教えている。
復活がなければ、教会生活や正しい生き方は無意味になり、好き勝手に生きるだけの人生になってしまう。しかし、キリストの復活によって、信じる者には希望が与えられ、主の御業に励む意義が生まれる。復活の勝利により、労苦は無駄ではなくなり、主から認められる時が来る。
視覚障がいがありながらも、その生涯で3千曲以上の賛美歌を作詞したファニー・クロスビー(1820~1915)のように、困難な状況にあっても信仰を持ち、忍耐と賛美をもって主に仕え続けることが大切である。復活は過去の出来事ではなく、現在の生活の力であり、正しい生き方を支える源であると同時に、未来の希望をもたらす。
開会礼拝の後には、淀川キリスト教病院理事長の笹子三津留氏による基調講演が行われた。笹子氏はまず、キリスト者の主要な使命として、主である神を愛し隣人を愛すること(マタイ22:37~39)、全世界に出て行って全ての国民を弟子とすること(マタイ28:19~20)を挙げた。終末のしるしとして全世界で起こっている地震、戦争、迫害などを指摘し(マタイ24:6~8)、私たちが実際直面している危機として、総会のテーマで挙げられた「経済危機」「自然災害」「世俗主義」にそれぞれ言及した。
経済危機に関しては、日本の少子高齢化、原油価格の上昇、急激な円安、それらに伴う生活費の高騰、社会医療費の逼迫(ひっぱく)を挙げた。そして、淀川キリスト教病院が始めた社会福祉事業として、低所得者や特殊事情により医療を受けにくい人々への無料または低額での医療提供を紹介した。
自然災害に関しては、地球温暖化による壊滅的な洪水や巨大竜巻、干ばつ、また作柄不況による飢饉(ききん)、大地震や津波が起こっている現実を指摘。これらの自然災害への備えが病院にも求められているとし、多数の被害者に対応するために治療の優先順位を決めるトリアージや、災害後の事業継続計画(BCP)の必要だけでなく、被災者への精神的・心理的、さらに霊的なケアの重要性を語った(ローマ12:15~16、1コリント13:13)。
世俗主義に関しては、精神的、霊的、そして倫理的領域から宗教的な影響を取り除く試みであるとし、その結果、物質主義が支配的となり、極端な個人主義に陥っている現状があるとした。その中で、がんなどの重大な病や障害を残すような外傷を負ったとき、生きる意味の喪失は大きく、キリスト教病院は愛をもって全人的癒やしを提供する必要があることを示した。
歓迎夕食会では、日本からの歓迎のしるしとして、医療法人好縁会の理事長夫人や職員らによるゴスペルフラ、白い家フェローシップチャーチによる沖縄の踊りを組み合わせた賛美が披露された。そして、日本の参加者が、主題賛美「マラナタ」をタンバリンとダンスを組み合わせて歌った。
歓迎夕食会後には、各国・地域の代表者による会議が行われ、2026年の第28回総会は台湾で、28年の第29回総会はタイで開催することを決定した。さらに、軍事政権下の危機の中にあるミャンマーのアガペー病院への支援についても話し合い、特に医療機器と施設の拡充、医療従事者の教育について議論した。(続く)
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