四川料理とは、陳建民先生が黄昌泉先生と共に1952年ごろに日本に紹介した中国料理です。味が複雑で、いろいろな香辛料やジャンを使い分けることを特徴としたものです。これまでに日本に中国料理というものは確かにありましたが、広東料理が最初に入ってきたと聞いています。広東料理は、特に魚介類を中心に、塩味を薄くつけて料理するので、油っこくない点が日本人に受け入れられたのでしょう。また、一流ホテルなどに広東料理が入ってきたと聞いています。そして徐々に北京料理、上海料理と続き、四川料理は一番遅れて入ってきたようです。
四川料理は、辛いもの、香辛料を使ったもの、独特の味つけのものなどがあり、あまり日本に一般化されない中で、受け入れられてきたという経緯があります。一般に親しまれているものといえば、恐らく「麻婆豆腐(マーボードウフ)」「麻婆茄子(マーボーナス)」「海老のチリソース煮」「棒々鶏(バンバンジー)」「キャベツと豚肉の味噌いため」などの料理名があげられると思います。
四川には「百の料理、百の皿」という言葉があります。これは百種類の料理を出すと、百種類とも味が違う――という意味合いがあるのです。広東料理の場合には、薄い塩味で素材の味を生かすというものですが、味の種類からいえば、四川料理の方が多いといえましょう。香辛料を多く使い、唐辛子を多く使い、いろいろな技法を通して体にいいものをいかに上手に料理するかということに重点を置いた薬膳料理、漢方料理も多くあります。いずれにしても、四川料理は奥が深く、多彩なものでありますから、ぜひ多くの人にそれを楽しみつつ味わっていただきたいと思います。
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荘明義(そう・あきよし)
1944年中国・貴州省生まれ。4歳のときに来日、14歳で中華料理の世界に入り、四川料理の大家である故・陳建民氏に師事、その3番弟子。田村町四川飯店で修行、16歳で六本木四川飯店副料理長、17歳で横浜・重慶飯店の料理長となる。33歳で大龍門の総料理長となり、中華冷凍食品の開発に従事、35歳の時に(有)荘味道開発研究所設立、39歳で中華冷凍食品メーカー(株)大龍専務取締役、その後68歳で商品開発と味作りのコンサルタント、他に料理学校の講師、テレビや雑誌などのメディアに登場して中華料理の普及に努めてきた。神奈川・横浜華僑基督教会長老。著書に『わが人生と味の道』(イーグレープ)。