発見された降誕賛美礼拝の記事
すべての人の救い主である神様は、全地の主であり歴史を支配されていますから、どの時代でもどの地でも、聖なる御名を呼び求めている所では、昔も今もこれからも崇められるお方です。神様は古代中国でも降誕節にシリア語で賛美礼拝されていました。その記事がドイツ人の探検家ル・コック(1860~1930)によって発見されました。彼は中央アジアを探検した考古学者でしたが、1905年に団長として調査した高昌付近で、9世紀~10世紀頃の作と思われる両面シリア語で書かれた景教徒の降誕に関しての祈祷と讃美の断片4枚(写真はその一部)を発見しました。
それは1027行、800語で、景教徒たちによる降誕のメシアへの賛美が多く、三位一体の神の栄光を讃えています。内容は教会暦の中で用いられた降誕記念節の聖餐式礼拝での讃美と祈祷文ですが、日付が無記で、降誕記念日がいつであるか判明出来ないのが残念です。
このシリア語文を佐伯好郎著『景教の研究』から現代語に部分訳して紹介します。
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私たちの喜びは尽きない。神に愛されている者は集まろう。私たちは私たちの罪咎を赦し、救いを与えられたメシアの御体と御血は命の祭壇の上に置かれている。メシアは教会に臨在しておられる。心を整えて聖餐に近づこう。聖霊は父なる神と本質を同じくし異なることなし。さあ集まろう。すべての民よ、聖なる思いで救い主に近づこう。救い主の本質は隠されているが、あなたがたはその奥義を知ることをゆるされた。
私たちは私たちの罪咎を赦し、救いを与えられたメシアを讃美し、たえずハレルーヤ、ハレルーヤと讃える。聖子(みこ)は処女より生まれ、インマヌエルと称えられた。
私たちのために救い主は産まれた。処女マリアは神の本質であるメシアを、今日ダビデの村で産み、救い主は私たちの犠牲の子羊で、聖餐は私たちの命の糧。私たちは畏れつつメシアの聖なる御名を讃える。聖子は神と人とを和らげるために世に降られ、私たちに平和と喜びを与えられた。
聖子は永遠の命をすべての国々の民に与える神の独り子。羊飼いたちはみな慶び、東方の博士たちも貢物を捧げに来た。天使たちも声合わせて讃美を子羊(メシア)に捧げた。
「いと高き神に栄光が、地には平和が、人には恵みがあるように」と声をあげて歌う。「マリアによって産まれた救い主にハレルーヤ、ハレルーヤ」。
「恵まれた者よ」と言われた神の祝福は処女マリアに告げられ、マリアは「あなたは、不思議で奇しき男子を産む」との御声を聞き、その奇しき聖子は天地万物を統治される救い主。
平和の福音は天使ガブリエルが処女マリアに伝えた慶びのメッセージ。マリアは王なるメシアを奇しき家畜小屋で産み、一夜を過ごし、アダムによって罪は全ての人に及んだが、救い主の流された血潮によりすべての人の罪を贖うために救い主は世に遣わされた。人々よ、喜べ。
天にも地にも大いなる喜びが起きた。天使たちの声である。「いと高きところに栄光が聖父に、地には平和、人には恵みがあるように。人々は喜べ、永遠の救い主は産まれられた」
神よ、あなたが喜びをもって遣わされたあなたの聖子はあなたの民の羊飼い。救い主よ、あなたの人格(「プロソーポス」、英語でパーソン)は一つであって二つではない。(一人格者で二人格者でないことを表明。)
人は勇士といえども正しき道を失えば、空しく全軍の勝利を失う。それゆえ私たちは穢れもしみもなく、正しい信仰の道に歩むことに努める。私たちの父なる神の右に着座された仲保者(メシア)よ、あなたの御手により私たちを守りたまえ。
私たちに約束されたあなたの御国は十字架で、あなたの十字架は堅固、悪魔の危害から私たちを守る主の十字架。聖なる主の御体と御血とにより主の御業の偉大なる勝利を讃えん。私たちは主の大いなる御業を想い起こすたびに主を賛美する。
栄光はいつまでも三位一体の神にあるように。私たちは主を賛美し、主の力が私たちを守り、私たちを平和に導く。主は万物よりも尊く、万物に優りて賛美される神なり。アーメン。
主よ、私たちに力を与え、私たちの教会を新しく聖別し、教会の規律と秩序を再び定めることを得させたまえ。
あなたの基いは全て聖書にあり。
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以上は、景教徒の教会暦降誕節における賛美礼拝のシリア語文ですが、筆者は以前、拙著『景教のたどった道』において一部を紹介しました。
父・子・聖霊の三位一体の主が賛美され、降誕の時の様子も書かれています。ハレルーヤ、ハレルーヤで満ち溢れた賛美集会の様子が浮かんできます。ただクリスマスという言葉がラテン語のクリスト・ミサで西方ローマ教会発祥ゆえに、景教徒たちはシリア語で礼拝していたのでクリスマスの用語は使用していません。またイエス・メシアの神・人二性一人格の教えが書かれていて正統信仰であることを表明しています。
栄光がいつまでも全地で崇められる神、我らの父・子・聖霊にあるように。
※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、2014年、イーグレープ)
『景教の研究』(佐伯好郎著、名著普及会発行)
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川口一彦(かわぐち・かずひこ)
1951年、三重県松阪市に生まれる。現在、愛知福音キリスト教会牧師。日本景教研究会代表、国際景教研究会(本部、韓国水原)日本代表。基督教教育学博士。愛知書写書道教育学院院長(21歳で師範取得、同年・中日書道展特選)として書も教えている。書道団体の東海聖句書道会会員、同・以文会監事。各地で景教セミナーや漢字で聖書を解き明かすセミナーを開催。
著書に「景教-東回りの古代キリスト教・景教とその波及-」改訂新装版(2014年)、「仏教からクリスチャンへ」「一から始める筆ペン練習帳」(共にイーグレープ発行)、「漢字と聖書と福音」「景教のたどった道」(韓国語版)ほかがある。最近は聖句書展や拓本展も開催。
【外部リンク】HP::景教(東周りのキリスト教)