私は、子どもの頃よく三面鏡の前に座り自分の姿を映して遊んだものです。三面鏡の前に立つと三方向から別々の自分の姿が映し出されるからです。それが楽しかったのです。
人間関係は鏡だという言葉があります。自分の姿が相手の姿の中に鏡のように映しだされるからでしょう。相手の人格という鏡にどのような自分が映しだされているのでしょうか。
それは、三つの自己像が映しだされています。その第一は「自分がこうありたいと願っている像」。第二は「他人が私について抱いている像」。第三は「他人からよく思われたい像」。このような三つの像は、自分を理解するために大切なことです。具体的に、「自分は誰であるのか」「なぜ現在のように行動するのか」「なぜ、そのように考え、感じるのか」などについて洞察するヒントを与えてくれるからです。これらは、過去何を受け学習してきたかに関係しています。「過去は自分たちの人生の一部である」という言葉の深さです。
私たちは、自分の過去を意識せずに生活しています。しかし、過去に支配され過去を引きずって生きているのです。私たちの過去の基礎は、家族の歴史、伝統です。ここに私のルーツを解く鍵があります。このルーツを知ることがなければ自分自身を知ることが不可能になってしまいます。この考え方は、家族の問題を取り扱う方法としても大切な理解です。
私は時々、幼稚園のお母さんたちに聖書等の講演会でお話をする機会があります。不思議なことですが、講演会が終わり講師室に行くと何人かのお母さん方が来られます。そして、いくつかの質問を個人的に受けます。その中に「私は親との関係で自分が子どもの頃、いやな思いをしたことについて、自分の子どもには絶対こんなことをしないようにしようと思い、自分に言い聞かせてきました。しかし、現実は違いました。自分があれほど嫌がっていたことと同じことを自分の子どもに対してしてしまいます。そんな自分が嫌で嫌でたまらないのです。その自分から解放されたい」と訴えられる方が少なくないのです。
これは、「人間は学習したようにしか行動できない」という思いであり行動です。この問題を取り扱うために、過去を切り放し、軽く扱うことはできません。それは、過去と深い関係があるからです。自分の育った家庭で経験したことを、今の生活の中で繰り返しているのです。愕然とする現実です。今の私は過去の家族と繫がっているのです。そして、今の家族は過去の家族とも繫がっているのです。
だからこそ、私たちは過去から引きずっている未解決な問題や葛藤に取り組むことが必要になってきます。そして、連鎖を止めなければなりません。そうしないと、内容によってはもっと状況は悪くなってしまいます。自分が拒否し否定した家庭の生き方が、自分の生き方の一部になってしまっていることに気付くことです。
日本の一般社会のキリスト者に対するイメージは、人格的にバランスのとれた愛に溢れた人物です。しかし、現実はキリスト者でない方々の方が人格的にバランスのとれた方が多いのです。それは、信仰や霊性の問題ではなく過去と深い関係があります。
牧会と牧会カウンセリングで取り扱う領域の違いはそこにあります。人格的問題と霊性は互いに影響し合います。両方からのアプローチが必要なのです。私たちは、どんな自己像を持っているでしょうか。自分の中にある自己像を検討してみてはいかがでしょうか。
■ こころと魂の健康: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)
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渡辺俊彦(わたなべ・としひこ)
1957年生まれ。多摩少年院に4年間法務教官として勤務した後、召しを受け東京聖書学院に入学。東京聖書学院卒業後、日本ホーリネス教団より上馬キリスト教会に派遣。ルーサーライス神学大学大学院博士課程終了(D.Mim)。ルーサーライス神学大学大学院、日本医科大学看護専門学校、千葉英和高等学校などの講師を歴任。現在、上馬キリスト教会牧師、東京YMCA医療福祉専門学校講師、社会福祉法人東京育成園(養護施設)園長、NPO日本グッド・マリッジ推進協会結婚及び家族カウンセリング専門スーパーバイザー、牧会カウンセラー(LPC認定)。WHOのスピリチュアル問題に関し、各地で講演やセミナー講師として活動。主な著書に『神学生活入門』『幸せを見つける人』(イーグレープ)、『スピリチュアリティの混乱を探る』(発行:上馬キリスト教会出版部、定価:1500円)。ほか論文、小論文多数。