聖書の中には、ある実業家のストーリーが出てきます。それはマルコの福音書の10章17節から27節です。簡単に要約してみましょう。
今から約2千年前、イエス・キリストが道を通っていたところ、一人の青年実業家が近づいて来ました。この「ひとりの人」とは聖書の他の個所(マタイ19:16~26)を見ると、「青年実業家」であったことが分かります。彼はイエスのもとにひざまずいて尋ねました。「尊い先生。永遠のいのちを自分のものとして受けるためには、私は何をしたらよいでしょうか」。するとイエスとの会話が始まりました。イエスはユダヤ人に求められている律法(戒め)の「殺してはいけません。姦淫してはいけません。盗んではいけません。偽証を立ててはいけません」を守るように言いました。
すると彼は「先生。私はそのようなことをみな、小さい時から守っております」と返答しました。イエスはその青年を見つめ、言語では「彼をじーっと見つめ」です。すなわち慈しみの目と心でイエスはこの人をご覧になりました。律法を守り通せる人はいません。例えば、「姦淫してはならない」とは、心の中で異性に対し不純な思いを持った時、既にそれは姦淫であると、イエスは言われました。もしそのレベルで考えるならば、誰一人これを守れる人はいません。「盗んではならない」では、盗みをしたことがない人は恐らくいないと思います。しかし、彼は「全部守っている」と返答し、自分は道徳的に義人であると考えていました。
イエスは彼に対し、「あなたには、欠けたことが一つあります」と言いました。イエスはこの人を批判したり、攻撃したり、また責めてもおられません。「あなたには、欠けたことがワンポイントある」とは何かと言えば、「あなたの持ち物をみんな売り払って、貧しい人たちに施しなさい。そうすれば、あなたは天に宝を積むことになります」です。皆さん。「キリスト教は財産を処分しろ」と教えていると、考えないでください。イエスがなぜ「持ち物を処分しなさい」と言われたかといえば、彼の心がその財産に縛られていたからでした。ですから、イエスはそこから彼を解放させようとされたのでした。
しかし、彼は「顔を曇らせ、悲しみながら立ち去った」(22節)とあります。ここに有名な言葉、「金持ちが神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通るほうがもっとやさしい」(25節)があります。彼の願いは、「神の国に入ること」「永遠のいのちを得る」ということでした。しかし彼には財産と富がありました。それらが彼にとって大きな妨げとなっていました。そこでイエスは彼に、この障害物を除去する道を教えました。しかし、彼はそれを受け入れることはできず、悲しみながら去って行ったというストーリーです。
真剣な質問
簡単に要約すると、このテキストは3点に分けられます。一番目は、彼の真剣な質問です。彼はイエスのもとに来た時、「ひざまずいて」とありますから軽率な気持ちではありませんでした。彼は真剣で「どうすれば永遠のいのちを得ることができるか」と尋ねました。裏返すと、彼はこの世の財産、この世の富、この世の地位、人が求めるものはすべて手中に収めていたに違いありません。しかも彼は青年で、まだ若さがありました。若くしてこれだけの地位と財を築いていた彼には、何の不自由もありませんでした。しかし、彼にも不足がありました。それはユダヤ人の彼は、人は地上生活だけでいのちが終わるものではないことを知っていました。彼は人が死んでも、魂は永遠に生きることを知っていました。確かにそうです。私たちがどれほどの財産や地位を獲得しても、人間は本当の意味で満足はしないのです。
2001年9月11日、ニューヨークのワールド・トレード・センター(WTC)が、無残にも破壊されました。2014年11月3日、今そこに新しいワン・ワールドトレードセンターが完成しました。それを建てると言ったのは、あるユダヤ人です。先日フィンランドで、私の友人が私にそのユダヤ人の奥様と話をしたことを話してくれました。彼女のご主人は、ニューヨークで大成功した大金持ちだそうです。とにかく自宅からジョン・F・ケネディ国際空港に行くのに専用ヘリコプターを使うほどです。また、ニューヨークマラソンを見るために、マラソン選手が走る道路向かいのマンションを購入しました。それは彼の息子が、一年に一回走るのを見るためだそうです。本人は、一年に一、二回しかそこに行かないそうです。
彼の会社には建築家が500人、そして技師が800人もいるそうです。その他にも彼は、いろいろなビジネスに成功した人です。彼の夫人は私の友人に言いました。「主人は仕事、仕事、仕事。朝起きたら仕事、そしてすぐお金のこと、彼は私と会話する時間がないのです。私たちは何も不自由していません。欲しいものは何でもあります。しかし、寂しいのです」と言いました。私はそれを聞いた時に、「きっと、そうだろうなあ」と思いました。聖書の中にこのような言葉があります。「たとえ人が全世界をもうけても、人がそのいのちを損じたら何の得になろうか」(マタイ16:26)。確かに、私たちにとってお金は必要です。私たちは、ビジネスを行う際にもお金は必要です。しかし、それは必要の一つであり、もっと大切なことに目を留めなさいとイエスは教えられたのです。
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黒田禎一郎(くろだ・ていいちろう)
1946年、台湾・台北市生まれ。70年、ドイツ・デュッセルドルフ医科大学病院留学。トリア大学精神衛生学部、ヴィーダネスト聖書学校卒業。75年、旧ソ連・東欧宣教開始。76年、ドイツ・デュッセルドルフ日本語キリスト教会初代牧師就任。81年、帰国「ミッション・宣教の声」設立。84年、グレイス外語学院設立。87年、堺インターナショナル・バイブル・チャーチ設立、ミニスター。90年、JEEQ(株式会社日欧交流研究所)所長。聖書を基盤に、欧州情報・世界 情報、企業講演等。98年、インターナショナル・バイブル・チャーチ(大阪北浜)設立、活動開始。01年、韓日ワールドカップ宣教GOOL2002親善大使として活躍。著書に『世界の日時計』(Ⅰ~Ⅲ)、『無から有を生み出す神』『新しい人生』『愛される弟子』『神のマスタープランの行くへ』『ヒズブレッシング』、韓国語版『聖書と21世紀の秘密』、中国語版『神の聖書的ご計画』他訳書あり。