第3番目に、「会社が生きる道はどこにあるか」です。それは「社訓」の実践にあります。聖書は次のように教えています。「それで、何事でも、自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい。これが律法であり預言者です」(マタイ7:12)。考えてみれば、「自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい」とは当たり前のことです。しかし、この当たり前のことをしてもらう時はうれしいのですが、こちらからそれを実践することは難しいものです。なぜなら、犠牲を払わなければならないからです。しかし、このステップをクリアすることができれば、すなわち「社訓」に人の生きる道(方向)が明示され、かつこれを実践する方向へ導かれるなら祝されます。ここに祝福へのカギが秘められています。これは実践するべき黄金律であります。
世の中には事業で成功した企業が多々あります。『日経ベンチャー』(2005年10月号)には、ベンチャー企業の中でも最近成功した企業が載っていました。その一つは「日本和装ホールディングス株式会社」(旧「ヨシダホールディングス」)。この会社は呉服業界です。現在、この業界は縮小が止まらない状況ですが、この会社は驚異的成長を見せるベンチャーです。創業者の吉田社長は「無料着付け教室」を始めた結果、多くの顧客を得て市場をつくり発展していきました。呉服業界の常識を覆すユニークな発想は、大きな成果をもたらしました。
会社の政策は、春と秋に4カ月間、全国300カ所で開催する着付け教室をすべて無料で開いたことです。「着付け教室」に無料で行けるということは、女性心理を確実に捉え、くすぐるものです。つまり、教室運営にかかる費用は呉服問屋や帯のメーカーが提供します。そのスポンサー料などが、「日本和装ホールディングス株式会社」の主要な収入源になります。着付け教室なのに受講する側ではなくて、生産者側がお金を出すというところに吉田流ビジネス・モデルの神髄があると考えられます。その背景には、着物を着る人が年々減り続けてきていることがあります。呉服市場は長期低迷といわれています。1999年から2004年までの5年間で、市場規模が25%、すなわち4分の1も縮小しています。これは『きもの産業白書2005年版』に出ています。呉服問屋や帯メーカーにとっては、着付け教室に通い自分で着物を着られる消費者が増えれば、新たな購買層の拡大につながると考えました。
すなわち、運転できない人は車を買いません。免許証があって、運転できるから車を買うわけです。着物も同じことです。ですから、着付けが自分でできるようになれば、自分で欲しいと思うようになるという発想です。確かに着付け教室に行きレッスンを受けることは、お金や時間などいろいろな犠牲を払って行くだけのものもないというところに吉田社長は目を付けたわけです。このビジネス政策は、2004年度だけで2万人近くの自分で着物を着られる女性たちを送り出したそうです。すごいことですね。全15回の講習のうち2回は帯のメーカー、そして呉服問屋から講師を招いて、着物の目利きや製作過程についての講義なども行われます。希望者はそこで紹介された帯や着物を割安の価格で購入できます。すると約半数の受講生が購入するそうです。そう考えると、吉田社長の視点はすごいものです。
しかし、彼はいきなり急成長したわけではありません。1989年、九州の福岡で3つの無料着付け教室を始めたのがスタートでした。その時は協賛企業が一社もなかったそうです。新聞広告を使って彼が受講生を募集した時に、初めに応募したのはわずか45人でした。その名簿を抱えて彼は京都へ乗り込み、そして現在は京都で大ビジネスをしています。飛び込みでいろいろな帯問屋などを回り、アイデアを説明しようと試みました。無料の着付け教室を開き、そして自分で着物を着られる女性たちが増えれば、市場のすそ野が広がっていくということを一つ一つ巡って彼は説明したそうです。もちろん彼の会社は無名で、ほとんどは門前払いだったそうです。無名のベンチャーの企業に誰も関心を示しませんでした。ところが、実際にこれを受講した人たちが「良い」と口伝えで言い始めたら、次から次にこの企業は発展していきました。この着付け教室の終了記念パーティーに、問屋やメーカーの経営者の人々が招待されました。初めは冷ややかな目でその人たちは見ていたそうですが、今は10万人の修了生がいます。するとメーカーや問屋の人々の見る目が、全く変わってしまいました。
すなわち問屋やメーカーは売りたい人で、持ち寄った商品を買いたい人は着付け教室の受講生です。この2つをドッキングさせて成功させるため、少しでも売り上げを高めるにはどうしたら良いかをプレゼンしたのがこの吉田社長です。平成18年5月時点で11万4千人を超える修了生がいるそうです。そのうちの半分は20万から30万円の商品をポンとお買い上げになっているそうです。重要点は、彼が顧客のニーズ、すなわちクライアントに喜ばれることに視点を置いたことです。そして、それに参与したメーカーも問屋も、同じように恵みと祝福にあずかっていることです。斜陽産業といわれた呉服業界が、このような形で伸びていることに注目したいと思います。
■ キリストの人材教育: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)
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黒田禎一郎(くろだ・ていいちろう)
1946年、台湾・台北市生まれ。70年、ドイツ・デュッセルドルフ医科大学病院留学。トリア大学精神衛生学部、ヴィーダネスト聖書学校卒業。75年、旧ソ連・東欧宣教開始。76年、ドイツ・デュッセルドルフ日本語キリスト教会初代牧師就任。81年、帰国「ミッション・宣教の声」設立。84年、グレイス外語学院設立。87年、堺インターナショナル・バイブル・チャーチ設立、ミニスター。90年、JEEQ(株式会社日欧交流研究所)所長。聖書を基盤に、欧州情報・世界 情報、企業講演等。98年、インターナショナル・バイブル・チャーチ(大阪北浜)設立、活動開始。01年、韓日ワールドカップ宣教GOOL2002親善大使として活躍。著書に『世界の日時計』(Ⅰ~Ⅲ)、『無から有を生み出す神』『新しい人生』『愛される弟子』『神のマスタープランの行くへ』『ヒズブレッシング』、韓国語版『聖書と21世紀の秘密』、中国語版『神の聖書的ご計画』他訳書あり。