自閉スペクトラム症(自閉症の最新の名称)とは、発達障害の代表的な疾患で、対人関係の障害、コミュニケーションの障害および想像力の障害が幼少時から認められることが特徴です。自閉症のなかで、知的障害を伴わず、コミュニケーションの障害の程度が軽いタイプをアスペルガー症候群と呼びますが、2014年のアメリカの精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)の改定で、この名称が消えてしまいました。すでに映画やドラマで有名になった名称ですが、日本でも名称が変わっていく可能性があります。
スティーブン・スピルバーグやスーザン・ボイルがアスペルガー症候群の診断を受けたことを告白しており、天才的な才能で活躍している人に多いといわれています。自閉スペクトラム症は、約1~2%の頻度で認められ、男性は女性の5倍も多いです。また約40%の人が注意欠如多動症(ADHD)を併せ持つといわれています。
対人関係の障害
自閉症スペクトラム症の人は、一人でいることが好きで、他の人と一緒にいるときに、どのように振る舞うべきかよく分かりません。幼少時から、人間よりも物に関心があって、保母さんやお母さんが「遊ぼう」と言っても知らん顔をして一人遊びにふけっています。会話中も視線を合わせず、話が一方的になりやすいです。
言葉が人を傷つけるということにも鈍感で「おばちゃん化粧濃いね」などと平気で言ってしまいますが、悪意はありません。相手の気持ちを理解し、その場の空気を読むのが苦手ですが、決して愛情がないわけではなく、他者の視点に立って状況を判断するのが難しいのです。
コミュニケーションの障害
次にコミュニケーションの障害があり、自分の思いを相手にうまく伝えられません。幼少時から言葉の遅れが見られ、オウム返しや独り言が多く、会話のやり取りが発展して続きません。ユーモアや冗談が通じにくく、感情や感覚を表現したり理解したりするのが苦手なので、気持ちの交流が難しいです。
また、書き言葉と話し言葉の使い分けがうまくできず、臨機応変に返答することも苦手です。言葉通りに捉えてしまうので、「担任の先生に叱られて、お母さんは耳が痛かった」と聞いて、母親に鎮痛剤を持ってきたりします。
想像力の障害
3つ目は想像力の障害と呼ばれている症状で、規則的なものへの強いこだわりがあります。すぐれた記憶力、分類整理、狭い領域への興味関心から、昆虫博士、鉄道オタクなどと呼ばれたりします。友人の名前と誕生日、星座などをすべて暗記しているため、驚かれたりもします。
いろんなものを集めたがり、パターン的な反復的行動、生真面目すぎて融通が利かない、体を前後にゆする常同運動なども見られやすいです。また規則性とこだわりが強すぎると、強迫性障害のような頻回(ひんかい)の確認のため、生活に支障が生じることもあります。
その他の特徴
音、光、味、におい、触覚などへの異常な過敏さがあり、わずかな音程の違いや大きな音が異常に気になったりします。体育が苦手で、工作が下手であったりしますが、ゲームのコントローラーはとても素早く正確に操作したりできる人もいます。パズル、カレンダー計算、数字の記憶が得意ですが、急激な変化に弱く、パニックに陥りやすいなどを認めます。
社会生活
軽度の人であれば、社会適応が良好な場合があります。公平・平等の精神が強く、ルール通りに従い、律儀であるなどの長所を持っているので、会社や学校では、真面目で誠実な姿勢にプラス評価を受けることが多いと思われます。また、多くの人が見逃しがちな細かい部分に気付き、ほかの人が面倒に思いがちな工程などもしっかりと抜け漏れなく行えるので、作業の工程が決まっている仕事であれば優秀な成績を残します。芸術家、医師、大学教授にも自閉症傾向の人がかなりいます。
聖書の人物
聖書の中で自閉症的傾向が推測される人物はエリヤです。彼は毛衣、腰に皮帯という独特のスタイルで、ケリテ川でカラスに養われていたように、孤独が苦痛ではなかったのではないかと想像されます。正義に対して厳格で、情に流されず決断し、バアルの預言者たちに裁きを与えています。
何百人の預言者に対して一人で恐れずに戦ったかと思えば、女王イゼベルの言葉に極度におびえてしまい、逃げ出すという鈍感(勇敢)と繊細(恐れ)の混在が見られます。また、アスペルガーの人は急激な変化に弱く、「うつになりやすい(50%の人にうつ病を合併)」ですが、荒野へ逃げ、ホレブ山で洞穴に入り、閉じこもって死を願うといううつ状態の体験がありました。「主よ。もう十分です。私のいのちを取ってください。私は先祖たちにまさっていませんから」(Ⅰ列王記19:4)
歴史上には、その人物にしか成し得ない重要な役割があり、エリヤでなければ果たせない使命というものがあったと思います。それはエリヤの特質(正しい事であれば人間的な常識や情に左右されず、思い切って行動するという忠実さ)とエリヤの強い信仰の両方があって初めて成し遂げることができたのではないでしょうか。
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浜原昭仁(はまはら・しょうに)
金沢こころクリニック院長。金沢こころチャペル副牧師。1982年、金沢大学医学部卒。1986年、金沢大学大学院医学研究科修了、医学博士修得。1987年、精神保健指定医修得。1986年、石川県立高松病院勤務。1999年、石川県立高松病院診療部長。2005年、石川県立高松病院副院長。2006年10月、金沢こころクリニック開設。著書に『こころの手帳―すこやかに、やすらかにー』(イーグレープ)。