前回、アジアキリスト教病院協会(ACHA)の歴史と意義について書いたが、韓国で開かれた今年の第23回年次総会(11月8〜10日)では、1日目に韓国YMCAの安載雄(アン・ジェウン)総裁が「平和の文化の構築」と題して主題講演を行った。
講演の内容は、講演題に言われているように、悲惨な状況、特に争いの結果もたらされる破壊された状況になる前に、「平和の文化」を構築することが大切であり、そのためには、自分たちが陥っている思い込みの穴の中から出て、互いに理解し合い、愛することが必要だ、というものだった。牧師でもある安氏は、そのためにわれわれは、「私たちは何一つこの世に持って来なかったし、また何一つ持って出ることもできません。衣食があれば、それで満足すべきです」(テモテ一6:7〜8)という、聖書の御言葉が現代社会に語っていることを心に留めるべきだと語った。
われわれは、まるでアーネスト・ヘミングウェイの小説『老人と海』に登場する老人のようであり、本来の義務を忘れ、自分自身が関心のある名誉と栄光にあまりにもとらわれ過ぎている。しかし、われわれは互いに愛し合い、分かち合い、支え合い、この共同体をさらに人間らしいものにすべきである。すなわち、平等、正義、平和、そして、幸せに基づいた共同体を目指すべきである。われわれにはそれができるし、それは未来ではなく今できる。安氏は力強く、このようなメッセージを伝えた。
総会に参加したオリブ山病院の下地直美チャプレンは、次のように感想を述べている。
今回の基調講演では、韓国の安載雄牧師が「平和」をテーマに話されました。実際に韓国では、北朝鮮と緊張関係が続いており、その中で平和に対する意識が強く、また世界の平和に対しても真剣に取り組む姿勢が見られました。その「平和」を築いていくために、聖書の側面から語られていたことが印象的でした。特に、マルコの福音書12章31節の「あなたの隣人を、あなた自身のように愛せよ」という聖書箇所に、私たちが取り組んでいくための手掛かりがあることが述べられていました。日本から行った私たちにおいては、平和に関しての意識の薄さを実感させられ、今後平和を築くための取り組みに関しても、日本人の私たちにできることを神様に祈って実践していく必要があると思わされました。
1日目の晩には、今総会のホスト役を務めた韓国の明知(ミョンジ)病院による歓迎晩餐会が行われた。チュンウン長老教会の韓国伝統音楽合唱団による特別演奏や、明知病院でボランティア音楽会を開催したり、礼拝の奉仕をしたりしているElse合唱団による賛美が披露され、神様の恵みを覚えることのできる晩餐会であった。Else合唱団は、ヘブライ語で神を意味する「El」、ソリストの「s」、アンサンブルの「e」からグループ名を付けており、韓国国内の小さな教会を回って賛美の奉仕をしているという。
2日目は、主題講演を受けてシンポジウム1が行われた。「地域サービスにおける宣教活動」をテーマに、どのようにして地域に根差した継続性のある医療宣教をなし得るか、を各参加国の代表が発表した。
以下、日本の参加者による報告である。
11月9日(金)は、朝食後、明知病院ヘバスで移動し、賛美礼拝で会議が始まった。シンポジウム1では、「地域サービスにおける宣教活動」として、日本、韓国、タイ、台湾から発表があった。日本のオリブ山病院からは、田頭真一理事長が、海外での医療宣教と、中国の貴港市人民病院(GCP)への精神科・リハビリ分野での技術支援について述べられていた。GCPの渉外担当として出席したジョシュア・タン氏(シンガポール)は、フィリピンでの地域発展のケーススタディーを発表していた。その中で「必要経費の20パーセントはシンガポールから、80パーセントはフィリピンからである。注意することは、現地の人々がわれわれに依存しないようにすること。彼らが彼ら自身で動けるように支援する。スキルは与えるがお金は与えることはしない」と話していた。(國吉貴子=オリブ山病院看護師)
シンポジウム1では、アジアのキリスト教病院が聖書から御言葉を受けて、発展途上国への医療宣教を頻繁に行っていることを知ることができました。貧しい者、病んでいる者のために、また孤児のために、肉体的、精神的、社会的、霊的なサポートが実際になされているのがとても印象的でした。特に、シンガポールからの発表では、発展途上国への医療宣教だけでなく、現地の方々が自活できるよう、さまざまな訓練がなされており、さらに聖書の学びも取り入れられ、キリスト者として歩んでいけるようにも、訓練や励ましがなされている様子を紹介されて、とても感動を覚えました。また、政府との関わりやコミュニティーとの関係を強めており、災害時や震災時、また緊急時には、その政府やコミュニティーとの連携を基に、すみやかな支援、援助などの対応がなされていることには大きな学びがありました。そこから、継続的にその国に出向いていく中で、その中で培われる政府やコミュニティーとの信頼関係が確立され、医療宣教の働きが進んでいることを学ぶことができました。(下地直美=オリブ山病院チャプレン)
シンポジウム1の終了後には、韓国の代表者から、来年の総会開催国であるタイの代表者に聖書を手渡す「ハンドオーバーセレモニー(引き継ぎ式)」が行われた。
次期総会は、来年11月14日(木)〜16日(土)にタイのバンコクキリスト教病院の担当で開催される。「変革:キリスト教病院からの挑戦」を主題に、「急速に変化する世界におけるキリスト教病院」「キリスト教病院のリーダーシップ」の2つをテーマにしたシンポジウムが行われる。さらに、ACHAに加盟していない他のアジアのキリスト教病院を招待するという課題がメンバー国に与えられており、さらなる広がりが期待されている。
2日目の午後には、北朝鮮との国境近くにある臨津閣(イムジンガク)を訪問した。朝鮮半島の南北分裂と統一の悲願を持つ韓国の今を覚え、同時に主題講演で語られた「平和の文化の構築」を問う機会を持つことができた。
次回は、2日目の文化交流晩餐会、明知病院訪問などについて報告させていただきたい。(続く)
■ アジアキリスト教病院協会第23回総会:(1)(2)(3)(4)
◇