前回の報告に続いて、第23回アジアキリスト教病院協会(ACHA)年次総会(11月8〜10日)のホスト役を務めた韓国の明知(ミョンジ)病院訪問、文化交流晩餐会、またACHAのこれからの在り方について話し合われた代表者会議について報告させていただきたい。
2日目午前のシンポジウムの後、会場のホテルを後にして、ソウル近郊の高陽(コヤン)市にある明知病院の見学が行われた。明知病院は1987年に開院したキリスト教病院で、600床の病床、250人の医師、550人の看護師を擁する総合病院である。
李旺埈(イ・ワンジュン)理事長は、キリスト教精神を持って病院を経営、発展させることの苦労を分かち合ってくださった。特に病院間の競争が激しくなる中、どのようにして医療レベルを上げるかに苦労しているという。その点でキリスト教病院は近年、後塵(こうじん)を拝しているとして危機感をつのらせており、さまざまな戦略を練っていることを紹介いただいた。
明知病院が行っている経営戦略の一例を挙げると、小児救急では、子どもたちの心理面に配慮して、室内のデザインやレイアウトを子ども向けに変更した。しかし一方で、一般救急と同じ場所に移設し、カーテンのみで仕切ることで経済効率が上がったという。
他にも、がんなどの放射線治療では、安心感を与えるため患者自身の好きな曲をBGMとして流せるようにしたり、変化する照明を設置したり、屋外空間を改装して個室や庭園を造ったりすることで、「メディカルツーリズム」(高度な医療を求めて海外へ渡航すること)で訪れる患者を多数受け入れている。また、これらの収益を十分確保できる分野とは対照的に、必要な費用に対して十分な収益の見込めない障がい児のデイケアを、他院が廃止する中、地域で唯一継続している。
明知病院は「一人一人の患者の尊厳と個性を認め、共感を持って、優れた医療を提供すること」を理念として掲げている。その実現のため、病院で働く全員が、医療技術の向上と熟練に励み、医療の発展に貢献し、地域医療に仕え、ケアに献身する者としての知識を深めることを掲げている。
明知病院の見学から教えられ、考えさせられたことは、李理事長が持つような経営手腕とキリスト教理念をどう昇華させ統合するかということであった。収支の面よりも患者の必要を優先して、障がい児のデイケアを地域で唯一継続していることは、クリスチャンとして理解しやすい。しかし一方で、メディカルツーリズムで海外から訪れる富裕層の患者を、1泊50万円余り、年間500人も受け入れていることをどう考えるか、意見の分かれるところであろう。
しかし見学を通して、特に厳しい病院間の競争の中で医療レベルをトップレベルにするための努力、患者それぞれの必要に応じるための戦略的経営をひしひしと感じられた。国際的なネットワークづくりにも積極的で、米国で最も優れた病院の一つとされる「メイヨー・クリニック」との連携を今年から始めている。これは韓国の病院では初めてのことで、医療界においては最高の医療を提供するための手段を手に入れたと評価されることである。
さらに最近では、職員の確保と支援のために「従業員ファースト」を強調しており、職員用のカフェやジム、マッサージチェアの設置など、設備の充実も図っている。
今回、明知病院の見学から、医療と経営の両領域でキリスト教主義をどう具現化するか、大きなチャレンジを受けた。特にこのような革新的ともいえる戦略は日本ではまれであり、さらにキリスト教病院では私の知る限りほとんどないということにおいて、大きな刺激となった。
明知病院訪問の後、2日目の晩には文化交流晩餐会が開かれた。各国の参加者が余興を行い、日本は賛美に合わせて創作ダンスを踊った。また参加者全員で、日本語、韓国語、台湾語、英語の4カ国語で賛美を歌い、共に医療宣教に仕える恵みを分かち合うことができた。国や言葉は違えども、キリスト教理念を持って共に医療を通して人々に仕えるという連帯の思いを強く感じることができた。
また、さかのぼっての報告になるが、1日目の晩には代表者会議が行われ、ACHAの今後の運営、総会の開催方法について話し合った。その中で、来年の総会は、2年前から正式なメンバーとなったタイで11月14〜16日に開催することを確認した。また、オブザーバーとして参加しているフィリピンが、将来的には正式なメンバーとして加盟することへの期待が決議された。さらに、ACHAの新事務局長として、韓国のパク・チンヨン医師(延世大学医療宣教センター長)が任命され、ACHAの事務局機能を韓国が日本から引き継いで担当することが決まった。(続く)
■ アジアキリスト教病院協会第23回総会:(1)(2)(3)(4)
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