アジアキリスト教病院協会(ACHA)の第23回年次総会が、11月8日から10日までの3日間にわたり、韓国ソウル近郊高陽(コヤン)市の明知(ミョンジ)病院で開催された。「ACHAにおける医療宣教の新しい地平線」をテーマに、日本や韓国、台湾、タイ、フィリピン、シンガポールなど、アジア諸国のキリスト教病院のリーダーたちが参加し、医療宣教についての会議と交流がなされた。日本からは、淀川キリスト教病院(大坂)、オリブ山病院(沖縄)、衣笠病院(神奈川)、ヴォーリス記念病院(滋賀)から22人が参加し、参加者総勢130人の非常に有意義な総会となった。
これから4回にわたり、今回の総会で話し合われた内容を報告しつつ、ACHAの歴史と未来への展望から、国際社会と日本におけるキリスト教病院が持つ意味と目指す役割についてお伝えしていきたい。
ACHAの歴史 キリスト教病院の「経営会議」からスタート
ACHAは、1993年に「日本・韓国・台湾キリスト教病院最高経営者会議」として、淀川キリスト教病院で、当時の院長である白方誠彌(せいや)氏(現名誉院長)の指導の下で始まった国際的なキリスト教病院の経営会議に端を発している。当時、日本では欧米から派遣された宣教師の役割が変わり、医療宣教に対する支援も縮小される中で、それまで宣教師の派遣母体に支えられていたキリスト教病院の経営が問われていた。そこで最初は、各病院の経営者らによる経営会議として開催された。その後も、キリスト教理念を切り離すことなく、むしろ医療宣教に向けてどう経営を発展させていくか、を話し合う場として続けられ、今に至っている。2014年に沖縄で開催された第19回総会では、創設者である白方氏より、その始まりが以下のように具体的に語られた。
この会は、私が淀川キリスト教病院の院長時代、1993年に日本のキリスト教病院の院長に集まっていただき、キリスト教病院の使命と経営の在り方を学ぶ会として開催しました。そして、当時淀川キリスト教病院と交流があった韓国の光州基督教病院、全州イエス病院、台湾の馬偕基督教病院、彰化基督教病院の院長に参加を呼び掛けました。幸い、快諾を得ましたので、日本の会が終わった後、半日でしたが、日・韓・台のキリスト教病院からの発表をしていただきました。
さらに、創設地の淀川キリスト教病院で2004年に開催された第10回総会においては、会議の意義が白方氏により次のように語られている。
今日、病院を取り巻く経済環境は、日本においては極めて厳しい状況に直面しております。おそらく韓国、台湾でも同様だと推察します。しかし、どのような環境でありましても、キリスト教病院はキリストの隣人愛に基づいた全人医療を実践し、神の栄光を顕(あらわ)さなければなりません。
その後、日本、韓国、台湾の中心的な3カ国に、アジアの他国も参加するようになり、2012年より「アジアキリスト教病院協会」に発展し、最初の参加国に加え、現在ではタイがメンバーに加わり、オブザーバーとしてフィリピンが参加している。その他、宣教先の国からの招待者として、これまでにバングラデシュやモンゴル、ネパール、中国(参加者自身はシンガポール国籍だが、中国の病院のコンサルタントとして参加)、ミャンマー、インドネシア、またアジア以外のアルメニアやナイジェリアからの参加もあった。まさに白方氏が2004年の総会で次のようにあいさつされた通りに発展し、今に至っている。
さらに、私どもが共に手を携えて、東南アジアの国々に対しても、主にあっての奉仕活動が行われることを切に願う次第であります。
このように、ACHAはアジアを中心に国際的な医療宣教の働きのために、経営と医療の働きの交流と協力が続けられ、今に至っている。その設立趣意書には以下のように記されている。
アジアキリスト教病院協会(ACHA)は、アジアのキリスト教病院によって組織される。この協会の目的は、イエス・キリストに栄光を帰し、情報交換、さらにより良い医療を実践するというキリスト教病院の理念を確かにすることである。それ故に、ACHAはイエス・キリストに対する信仰を土台に、経営と医療を進歩させ、医療宣教を推進することを目標とする。
これまで毎年の総会を軸に、アジア各地のキリスト教病院間の交流、姉妹提携、研修医交換、災害時支援、海外医療宣教などでの協力が話し合われ、十分とはいえないまでも実践されてきた。オリブ山病院についていえば、ACHAへの参加、事務局の担当、総会開催会場の担当(2007年の第13回と14年の第19回)によって、キリスト教病院としてのアイデンティティーを強くし、励ましを受け、連帯感を強く持つことができた。さらに、国内や海外の病院との姉妹提携、中国や韓国からの研修医の受け入れも行うようになった。また他国での災害時に援助金を送ることもできた。
日本においては現在、キリスト教主義を掲げている病院が60余りあり、クリニックも合わせると200にも及ぶ。しかし、実際にキリスト教主義を実践しているか、具体的に言えば、チャプレンがいるか、職員礼拝があるか、職員教育の中にキリスト教理念を含めているかを問うと、その数は限られている。さらに、キリスト教主義を実際の医療の実践の中に具現化しようと論理的に展開しているかとなると、数えるほどになってしまう。
残念ながら今では、歴史的に医療宣教師によって始められた、創始者がクリスチャンだった、背景にキリスト教の教派があるなどの理由でキリスト教病院と言われているところが多数といえる。もちろん、それでもキリスト教の精神が受け継がれ、医療の領域での貢献がなされていることは疑い得ないことだ。特に身体的な医療、社会的な奉仕においては、大きな社会的貢献を続けているといえる。しかし、人が身体と同時に心、そして魂も持っている全人的な存在であり、全人的なケアと癒やしが求められているとの前提で、全人的痛み(スピリチュアルペイン)に対応する体制を意識的に目指しているかとなると、その数はかなり限られていると思える。
そのため、ACHAを通して、日本のキリスト教病院をはじめ、アジアのキリスト教病院が互いに励まし合い、交流研究を通してキリスト教理念に固く立ち、人を全人的な存在として捉え、その身体と心と魂のケアと癒やしを実践し、経営が安定し、さらにより良き奉仕を続けて発展していけるように切に願っている。
次回は、今回総会の内容について報告させていただきたい。(続く)
■ アジアキリスト教病院協会第23回総会:(1)(2)(3)(4)
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