突然決まった「8泊10日世界一周」の旅
昔映画にあった「80日間世界一周」の旅ならぬ、8泊10日(機内泊時差のため8泊)で世界一周の旅をしてきました。「してきました」と言うよりも、突然することになったのです。行程は、4月27日に沖縄を出発、中国、英国、米国と、地球を西回りで一周し、5月6日に再び沖縄に戻ってくるというものです。
個人的には、人生の一回りと言われる還暦を迎えた年に世界を一回りできたことは、まさに神様からのプレゼントでした。内容も、自分自身のこれまでの働きをまとめ、さらにこれからを示唆するものでした。
ちなみに、この旅行はもともと、私が理事長を務める特定医療法人「葦(あし)の会」が運営するオリブ山病院(那覇市)の創立60周年記念事業の一環として行う英国ホスピス研修でした。記念事業のテーマは「温故知新〜創立の理念を胸に、踏み出そう新たな一歩〜」です。このテーマに沿って、オリブ山病院で1983年に始まったホスピスの原点を学び、これからを考えようと、世界最初の近代ホスピスであるロンドンのセント・クリストファー・ホスピスを訪問する研修を計画したのです。
しかし、そこに新たな計画が飛び込んできました。その1週前に予定されていた中国の貴港市人民病院での講演が変更となり、4月30日になりました。さらには5月4日に米国の母校で名誉学位授与式が行われるとの知らせが届いたのです。この2つがちょうど英国研修の前後となりました。その結果、中国、英国、米国というエキサイティングな世界一周の旅程となったのです。
もちろん心配もありました。それは体がどうなるのか。米国には通常、東回りで行きますが、時差ボケを何度も経験しています。一方、西回りとなる英国訪問が東回りに比べて楽なのは経験済み。しかし西回りであっても、地球を一周して帰ってくるとなるとどうなるのか。人体実験のような気持ちでした。その実験結果はこの旅行記の最後に明かします。
懐かしいジャンボジェットで出発
最初のフライトは、沖縄の那覇空港から台湾を経由し、中国の広州国際空港へ向かうものでした。4月27日出発の朝、搭乗機を見ると、何と懐かしいジャンボジェット。乗るのは何十年ぶりでしょうか。最初から温故知新の「温故」にふさわしい出発となりました。
中国での講演は招待されたもので、席はビジネスクラスと、最初から中国の歓待を感じるものでした。そこでふと思い浮かんだのが、14世紀から数百年と続いた明、清と、琉球との朝貢貿易でした。この貿易で琉球は船まで貸してもらい、お土産を持って行ってもその倍返の歓待を受け、たくさんのお土産を持って帰ったといわれています。「琉球」という国名や、琉球の初代統一王朝王家の姓「尚」は、このような関係の中で明から15世紀に与えられたとされています。
当時の中国は、このような冊封関係を近隣諸国と結んでいました。琉球王朝も、明との冊封関係の中で認められた、ある意味屈辱的な王朝と言えるのかもしれません。
もちろん現代の中国と沖縄の間には、当時の朝貢貿易のような冊封関係はありません。私も従属的な立場で中国に呼ばれたのではなく、全人医療と病院経営について講演し指導するという、神様からの使命を受けて向かったのです。またこれは中国の姉妹病院との交流を目的とした訪問でもありました。
人口500万人の「田舎」にある2400床の大病院
広州国際空港到着後、広州駅から中国の新幹線と呼ばれる高速鉄道「和偕号」に乗り、貴港市(広西チワン族自治区)に向かいました。広州市(広東省)から約4時間もかかる「田舎」であるはずなのですが、それが500万人の人口を抱える大都市なのです。
とにかく日本とは、ましてや沖縄とはまったく規模が違う大陸であることを痛感しました。もちろん、その医療も規模が違います。沖縄という小さな島にある343床のオリブ山病院から、大陸の2400床を有する貴港市人民病院へ指導に行くというのは、普通では考えられないことです。すべてがゼロを1つ付ければちょうどいい感じの大きさです。500万都市にある2万の学生が学ぶ医科大学。その大学が持つ9つの大学病院の第8付属病院が、私が訪れた貴港市人民病院です。
しかしその大病院が、精神科や高齢者医療、在宅医療、リハビリといった分野で、オリブ山病院の指導を求めているのです。講演の依頼を受けたとき、オリブ山病院を支える「全人医療」の理念を、実践で伝えることができる素晴らしい機会を与えられたと感謝するとともに、中国にさらに神様の恵みが注がれることを祈りました。
貴港市人民病院との交流は2011年にさかのぼります。ハイタオ・タン院長がオリブ山病院を訪ねて来られ、その理念とその背景にあるキリスト教信仰に感動し、姉妹提携をすることになったのです。日本と中国の関係は、ビジネス面では盛んに考察されていますが、霊的な面においてもさらに大きな役割が日本に委ねられていると確信しています。
「全人医療と病院管理」
さて私の講演は「全人医療と病院管理」と題したものでした。「全人医療」については、人間は体と心と魂を持つ存在であり、その全体「全人」をケアすることが大切であると語りました。体の部位に焦点を当てる現代西洋医学と、体全体を診る漢方医学を対比しながら、体だけでなく、心と魂までケアする全人医療を説明しました。
また「病院管理」では、日本の超高齢社会において、高齢者、在宅、リハビリの分野でどのような制度や対応があるかを紹介しました。これから中国にも到来するであろう高齢化社会、特に30年余りの厳しい一人っ子政策の結果として来る特殊な高齢化社会にどう対応するか、日本の現状から語りました。またそこでも土台は、人の尊厳を尊重する「全人医療」の理念であることを伝えました。
日本においても、さらなる全人医療が求められていますが、中国は共産主義による唯物論的思想が根強く、さらに急激に経済が発展したため、人を「全人」として扱うような医療を切望しつつも、現実はまったく逆の状況にあります。これは日本も同じですが、人としての尊厳を大切にできない社会の結果です。今中国でも多くの人がそれに気付き始めています。人は皆、魂の飢え渇きを持っているからです。
オリブ山病院を運営する「葦の会」の創立の精神は、イザヤ書42章3節「傷ついた葦を折ることなく、ほのぐらい灯心を消すことなく、真実をもって道をしめす」です。まさに病人という傷ついた葦を折らないような、配慮をもった癒やしとケアを目指しています。ここに、中国で神様の愛を証しするキリスト教主義の医療があると思っています。
中国の病院も、この神の愛に根ざした医療の必要性に気が付いたからこそ、私たちに指導を求めているのです。実際にこれまでも講演を数回依頼されています。一方、そこには貴港市人民病院のハイタオ院長個人の強い思いもありました。
神を求めるハイタオ院長
ハイタオ院長が沖縄を訪ね、初めてオリブ山病院を訪問したのは2011年のことでした。そこで、当時の理事長であった私の父が、患者のためにエレベーターのドアを開け、先に行かせたのを見て、この病院から学びたいと思ったと言うのです。
「院長自らがエレベーターのボタンを押して、患者を先に行かすなんて。この病院から学びたい」。このハイタオ院長の強い思いが、姉妹提携のきっかけとなりました。それが人事交流、精神科病院設立の指導、さらには高齢者、在宅、リハビリ医療の指導へとつながっていったのです。
ハイタオ院長は今回も、今はもう亡き私の父に会いたいと切なる思いを語ってくれました。次回は、私が礼拝を守った中国政府公認の三自愛国教会についてお話をさせていただきます。(続く)
◇