1930年代にウクライナであった人為的な大飢饉「ホロドモール」の犠牲者を追悼する合同祈祷式が26日、日本聖公会聖オルバン教会(東京都港区)で行われた。同教会で礼拝を行っている在日ウクライナ正教会「聖ユダミッション」が主催するもので、カトリックや聖公会の他、キリスト教以外の宗教の代表者らも出席した。
ホロドモールは、1932年から1933年にかけて、旧ソ連下にあったウクライナや、ウクライナ人が住んでいたロシアのクバン地域で人為的に起こされた大飢饉。農業の集約化を進めていた当時のスターリン政権が、これらの地域から作付けに必要な種子を含むあらゆる穀物や食料を徹底的に没収。さらに、これらの地域から人々が逃げ出さないよう、また食料を隠していないかを厳しく監視させることで起こされたとされている。
オーストラリア・ウクライナ研究財団のソニア・ミツアック特別研究員によると、ホロドモールの犠牲者は、最近の研究では1千万人に上るとも推計されており、当時のウクライナの人口の20~25パーセントが死亡したと考えられている。
ウクライナは、毎年11月第4土曜日をホロドモールの追悼記念日としており、2006年にはホロドモールをジェノサイド(大量虐殺)だとする法律を成立させている。またこれまでに、欧米など16カ国がホロドモールをジェノサイドと認定している。
祈祷式では、コンスタンティノープル総主教庁の韓国府主教で、日本における総主教代理であるアンブロシオス府主教があいさつ。アンブロシオス府主教や聖ユダミッションのポール・コロルク長司祭ら、正教会の聖職者ら4人が祈りをささげた。
カトリック東京大司教区の菊地功大司教は「平和のメッセージと祈り」を寄せ、同大司教区の広報担当者である赤井悠蔵さんが代読した。
菊地大司教は、「一人一人の人間の尊厳を真摯(しんし)に尊重しなければ、平和を達成することはできません。神からの賜物である生命は、その始まりから終わりまで守られ、育まれ、尊重されなければなりません」とし、「人間の運命を操る自由は誰にもありません。一人一人の生命の価値を決定する権利は誰にもありません」と訴えた。
また、冷戦下の1963年に当時のローマ教皇ヨハネ23世が発表した回勅「地上の平和」を引用。回勅の言葉として、「全ての時代にわたり人々が絶え間なく切望してきた地上の平和は、神の定めた秩序が全面的に尊重されなければ、達成されることも、保障されることもありません」と伝えた。
その上で、「大国がその隣人に対して暴力的な行動を取っている事態を目の当たりにして、これまで以上に平和を求めて叫んでいます」と言い、ロシアによるウクライナ侵攻にも言及。ホロドモールの犠牲者と、戦火にある現在のウクライナの人々のために祈りをささげた。
日本聖公会の管区事務所総主事である矢萩新一司祭は、現在のロシアによるウクライナ侵攻を「現代におけるホロドモール」と表現。「神様は全ての人間の命を等しく、そして尊いものとしてお造りになりました。どのような理由があっても、誰にも他者の命を奪う権利はなく、神様の戒めに背くことであります」とした。
その上で、「そのことを世界中の人々が自覚をして、特にキリスト者として生きている人々が、神様の愛の教えに立ち返ることを願います」と述べ、日本の聖公会も世界の聖公会も、ウクライナの人々を覚えて祈り続けていると伝えた。また、「ホロドモールの経験や、悲惨な戦争の現実を決して忘れることがないように、記憶し続け、自然を含む全ての命が大切にされる道を歩むために、祈り、行動する者であり続けたいと思います」と語った。
その後、矢萩司祭と聖オルバン教会の牧師であるマイケル・モイアー司祭、前東京教区主教の大畑喜道主教の3人で祈りをささげた。祈りでは、「暴力による支配が間違えた選択であることを私たちの心に刻み直し、異なる立場や考えを持つ人々を尊重して、何よりもあなたから等しく尊いものとして与えられた一人一人の命を大切にする道を歩ませてください」と求めた。
祈祷式には、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使も出席し、日本のウクライナに対する支援に謝意を示した。また、この春に娘と共に日本に避難してきたというウクライナのチェロ奏者、テチアナ・ラブロワさんによる演奏も行われた。