在日ウクライナ正教会「聖ユダミッション」が主催する「ウクライナの平和のための祈り」が6日、東京都港区の日本聖公会聖オルバン教会で行われた。ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナのために祈ろうと、在日ウクライナ人の信者を含め約30人が参加した。
集会はウクライナ語で進められ、聖ユダミッションの長司祭であるポール・コロルク神父が、信者が関係するウクライナの都市名を一つ一つ挙げるなどして祈りを導いた。また信者5人が交互に祭壇前に出てろうそくに火をともし、「ウクライナ、欧州、全世界に真の平和を、悪と戦争を止める知恵と力をお与えください」などと、7つの祈りをささげた。最後には、ウクライナ語、日本語、英語で「主の祈り」を唱え、ウクライナ語の賛美歌を会衆全員で歌った。
コロルク神父によると、新型コロナウイルスの影響で教会に来る信者は減っていたが、ロシアによる軍事侵攻への危機感が高まってきた今年2月以降は、通常の2倍近い人が教会に来るようになったという。
コロルク神父自身も、ウクライナ国内は親族や知人がいる。連絡はSNSで取っているが、首都キエフに住むおいは4日まで、ベラルーシと国境を接する北西部ボリーニ州に住むめいは5日まで連絡が取れており、無事が確認できている。負担にならないよう、連絡は1日1回にとどめているが、心の内には常にウクライナへの思いがあることを伝えているという。
ボリーニ州のめいは、病気で夫を亡くし6歳の娘を一人で育てている。コロルク神父は、できることなら日本に呼び寄せたいと考えているが、本人はウクライナから離れることは考えていないという。日本への留学経験もあるキエフ在住のおいは、ロシアが願うことはウクライナ国民が国外に逃げることだと言い、同じく国内にとどまる意思を示している。
ウクライナには現在、2つのウクライナ正教会が存在する。コロルク神父が所属するのは、キエフ総主教庁系のウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が合併して2018年に設立され、翌19年にコンスタンティノープル総主教庁(トルコ)から承認されたウクライナ正教会。一方、この承認に強く反発するロシア正教会との関係を維持するモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会も存在する。しかしコロルク神父によると、今回の軍事侵攻を受け、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会内でも、ロシア側と距離を置く動きが高まりつつあるという。
モスクワ総主教庁系ではないウクライナ正教会については、首座主教であるエピファニー府主教がロシアの殺害リストに挙げられていることが伝えられている。独立系の正教会ニュースサイト「オーソドックス・タイムズ」(英語)によると、エピファニー府主教はギリシャ国営放送(EPT)のインタビューで、自身がロシアの殺害リストの5番目に挙げられていることを明かしている。これは外国機関からの情報によるもので、軍事侵攻が始まった2月24日から3月3日までに、すでに3回の殺害未遂事案があったとしている。コロルク神父によると、実際にエピファニー府主教を狙って修道院に侵入したとみられる人物が、ウクライナ国家警察に取り押さえられる出来事が発生しているという。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐっては、ローマ教皇フランシスコや世界のさまざまな教会組織が呼び掛け、「灰の水曜日」である2日に世界各地でウクライナの平和を願う祈りがささげられた。2日に東京カテドラル聖マリア大聖堂で行われたのミサには、コロルク神父も参加。ミサの後に、カトリック東京大司教区の菊地功大司教らと共にウクライナの平和を求めて祈りをささげた。
コロルク神父は、「さまざまな人から連絡を受け、驚くとともに感謝している。多くの人から連絡があるため返事が遅くなることもあるが、引き続きウクライナのことを心に留めてほしい」と話している。