カトリック香港教区の元司教で現在は名誉司教の陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿(90)=保釈中=の裁判が、香港の西九龍裁判所で始まった。陳枢機卿は5月、2019年の香港民主化デモの参加者らを支援する「612人道支援基金」に関与したとして、他の5人と共に逮捕された。逮捕容疑は香港国家安全維持法(国安法)違反だったが、英ガーディアン紙(英語)によると、香港警察は同罪では起訴せず、基金の登録が適正ではなかったとするより軽微な罪で起訴。26日に出廷した陳枢機卿は無罪を主張した。
裁判は先週開始される予定だったが、判事が新型コロナウイルスに感染したため、一時的に延期された。同紙によると、国安法違反罪の場合、最高刑は終身刑だが、基金の不適正登録では最高で1万香港ドル(約18万円)の罰金にとどまる。裁判は11月上旬に結審する予定。
陳枢機卿の他に逮捕・起訴されたのは、ポップ歌手の何韻詩(デニス・ホー)氏、元議員で弁護士の呉靄儀(マーガレット・ヌ)氏、元議員の何秀蘭(シド・ホー)氏、大学教授の許宝強(ホイ・ポークン)氏、元基金書記の施城威(スゼ・チンウィー)氏。
陳枢機卿はアジア最高位のカトリック聖職者の一人で、逮捕時には世界に衝撃が走った。一方、ローマ教皇フランシスコは、陳枢機卿の逮捕や裁判について、中国政府を批判することを避けていることから、陳枢機卿に対する裏切りだとして非難する声も出ている。
陳枢機卿の逮捕時、教皇庁(バチカン)は「細心の注意を払って状況の推移を見守る」と述べるにとどめた(関連記事:香港警察、カトリック元香港司教の陳日君枢機卿ら4人を逮捕)。また、バチカン・ニュース(英語版)によると、教皇は9月15日、カザフスタン訪問後ローマに向かう機内で、陳枢機卿の裁判は信教の自由の侵害だと思うかを記者に問われたが、中国政府を批判することなく、対話に尽力すると述べている。
「中国を理解するには100年はかかりますが、私たちは100年も生きられません。中国の精神性は豊かなものですが、少し病むとその豊かさを失います。間違いを犯す可能性があるのです。理解するために、私たちは対話の道を選びました。私たちは対話に開かれています」
「中国の精神性を理解するのは容易ではありませんが、それは尊重すべきで、私は常にこれを尊重しています」
「中国を理解することは膨大なことです。しかし、忍耐をやめる必要はありません。私たちは対話を続けなければなりません」
香港では20年に国安法が施行されて以降、多くの民主化運動家が、同法違反を含むさまざまな罪状で逮捕・起訴されており、陳枢機卿もその一人。14年の香港民主化デモ「雨傘運動」を指導したキリスト教活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏も、同法が施行されてから数カ月後に逮捕され、現在収監されている。
陳枢機卿は国安法施行直後、談話を発表し、逮捕や裁判に直面する覚悟があると述べていた(関連記事:元香港司教、国安法めぐり談話発表 「逮捕や裁判に直面する覚悟ある」)。