香港の親中紙「大公報」が最近、2019年の民主化デモを扇動したとして、元カトリック香港司教の陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿(90)や香港の教会を批判し、中国共産党が香港で信教の自由を制限する可能性があると示唆する記事などを4本掲載した。
信教の自由の擁護で著名な米国人弁護士のニーナ・シア氏は、大公報に掲載された一連の記事は、キリスト教の聖職者や教会が、多くの若者が参加した2019年の民主化デモを奨励し、デモ参加者を擁護したと批判するものだと指摘。米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」の信教の自由センター長でもあるシア氏は、反共産主義で知られる法輪功系の「大紀元時報」に掲載された論説(英語)で、これらの記事は、香港の教会に対する中国共産党による管理強化の必要性を示唆しており、中国共産党による新たな弾圧を予告する糾弾キャンペーンのようだとしている。
最初の記事(中国語)は、「無法者・陳枢機卿が聖職位を乱用し香港を混乱」と題したもので、現在香港名誉司教である陳枢機卿が、廃刊に追い込まれた香港の民主派系紙「蘋果(リンゴ)日報」創設者の黎智英(ジミー・ライ)氏や、「香港民主主義の父」と呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)氏と関係があるとして批判している。
両氏は昨年、非合法の集会に関わったとして香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕され、有罪判決を受けている。しかしこの動きは、かつて香港の中心的理念であった自由に対する攻撃だとして、国際社会からは批判が集中した。
さらに記事は、「これらの宗教団体または個人は、多くの犯罪を引き起こしているにもかかわらず、政府が規制したり排除したりすることは困難である」とし、民主化デモで逮捕された人々の多くがキリスト教系学校で学んでいたことを挙げ、不満をあらわにしている。
米政府独立機関「米国際宗教自由委員会」(USCIRF)の委員でもあるシア氏はまた、他の記事は、教会が香港の学生の間で「暴動を扇動」し、民主化運動のデモ隊に隠れ場所を提供したと主張していると指摘。「彼らは教会を批判するだけでなく、政府の管理下に入れるべきだとまで提唱しています」と述べ、香港の信教の自由をめぐる今後の状況に懸念を示した。
陳枢機卿は、習近平国家首席による中国本土の教会に向けられた抑圧的中国化政策に対し、批判的な発言をする最近では数少ない聖職者の一人として、近年、中国共産党から怒りを買っている。さらに陳枢機卿は、中国政府に司教候補者を選ぶ権限を与えたバチカン(ローマ教皇庁)と中国の2018年の協定に対しても批判的だ。
シア氏は、記事の中には「中国共産党が陳枢機卿に対する報復を指示するとともに、香港のキリスト教系学校の速やかな買収を計画しているのではないか」と疑う内容もあると話す。また、香港の匿名のキリスト教聖職者は、中国共産党が「キリスト教系学校を統制しようとするのは、香港の教会管理を強化するための包括的規制の第一歩なのではないか」と危惧しているという。
もう一つの記事(中国語)は、香港立法会の親中派議員で香港聖公会前総主事の管浩鳴(ピーター・クーン)司祭のインタビューで、政府による教会の監視強化への支持が述べられている。記事によると、管司祭は宗教局の設置や中国寺院条例の教会への適用拡大を提案しているという。シア氏によると、この条例は1928年までさかのぼるもので、「仏教と道教の寺院に対し、登録、管理、規制、視察、監査、その他の統制という政府の面倒な様式を義務付けるもの」だという。