6月末に制定された「国家安全維持法」により、香港のカトリック教会が揺れている。香港の民主運動を支持してきた元香港司教の陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿は、逮捕されることもいとわないとし、同法に対する断固とした姿勢を示した。しかし、同じく元香港司教の湯漢(ジョン・トン)枢機卿は、教区の司祭らに「憎悪と社会的混乱を扇動」することのないよう注意を喚起する書簡を送り、より慎重なアプローチを求めている。香港教区は同法の遵守を呼び掛けており、中国政府に批判的な祈りのキャンペーンを計画していた香港カトリック正義と平和協議会に対しては、中止を要請するなどしている。
カトリックの国際週刊評論誌「タブレット」(英語)によると、湯枢機卿は教区の司祭らに宛てた書簡で、説教は「説教者の個人的な見解(社会問題や政治問題に関する自身の見解など)ではなく、神のメッセージを伝えるべき」と強調。「説教は私たちの日常生活や社会の具体的な状況との接触を失ってはならない」としつつも、「今日のような危機的な時期、信者たちは典礼において説教者から慰めの言葉、建設的で励ます言葉を聞くことを期待している」と述べた。
香港では、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡し可能にする「逃亡犯条例」の改正をめぐり、昨年春ごろから抗議運動が激化。社会不安がすでに1年半余り続いており、新型コロナウイルスの影響を受けながらも、デモはこの数カ月間も行われている。
ダブレットによると、同法は香港カトリック教会内に「分裂」をもたらしている。陳枢機卿は逮捕されることもいとわない姿勢を示し、他にもカトリック信者の中には、抗議運動を積極的に展開する人々がいる。しかし一方で、湯枢機卿をはじめとする香港教区の指導者たちは、教区内のカトリック団体に対し同法の遵守を求め、基本的自由への支持を強調することと、同法に従う意思を明確に表明することとのバランスを取っている。
香港カトリック正義と平和協議会は、クラウドファンディングにより資金を集め、中国政府に対し批判的な内容の祈りを野党紙に掲載するキャンペーンを計画していた。しかし香港教区は、資金調達の方法と祈りの文言が不適切であるとして中止を要請。この他、計15万人の学生が通う香港のカトリック系諸教育機関に対しては、教職員宛ての書簡を送り、同法の遵守と「愛国的価値の促進」を求めるなどしている。