中国の全国人民代表大会(全人代)は5月28日、香港における反体制活動を禁じる「香港国家安全維持法」を制定することを決定した。これにより、香港の高度な自治性が脅かされるとして、香港の民主運動を支持してきたキリスト教の聖職者たちも、中国本土に引き渡されるのではないかと懸念の声が上がっている。
大紀元時報(英語)によると、香港国家安全維持法は、法案をまとめている全人代常務委員会が、今月28日から30日に開く同委で正式に可決される可能性があるという。そうなった場合、中国政府による香港の直接管理が拡大され、人権と自由が制限されることになる。
在米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC、英語)によると、20日に法案の概要が発表された同法は、1)分離独立行為、2)国家権力の転覆(反政府行為)、3)域内のテロ行為、4)香港に干渉する国外勢力による活動――の取り締まりを目的としている。
ICCは、「このような法律の下では、香港の民主運動を支持してきた陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿(元香港司教)や夏志誠(ジョセフ・ハ)補佐司教などの聖職者も中国本土に引き渡される恐れがあります。中国政府は、こうした活動家を国家の脅威と見なしているためです」と懸念している。
「香港政府に対して積極的に発言してきた数百人に上る反政府活動家やキリスト教組織も、同じ運命をたどる恐れがあります。中国政府は、昨年6月に(香港で)始まった抗議デモをテロ行為と見なしています。また、香港の独立を求めるすべての活動を扇動行為と見なしています」
中国は、香港が英国から返還された1997年、香港に一定の自由を50年間認める「一国二制度」に合意した。しかし国家安全維持法は、約束された香港の自治を覆すものだ。香港の人権、自由、法の支配の状況を監視する非政府組織「香港ウォッチ」はツイッター(英語)で次のように述べた。
「基本的に、この法律は一国二制度に抵触しており、返還協定違反だ。表出した(法案の)詳細は、人権を危ういものとする」
香港への国家安全維持法導入をめぐり、欧州議会は国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に中国政府の提訴を検討するよう求めることを決議した。
米国も香港の優遇措置を見直し、中国と香港の当局に対して制裁を課すと警告している。
中国の国営・新華社通信は20日、法案を要約した説明文を明らかにした。それによると、中国政府は香港に治安維持機関を設置するという。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(英語)によると、治安維持機関に付与される権限には、▽香港の安全性の評価、▽情報収集と分析、▽国家安全保障問題に関わる香港当局への助言や監督、▽重大犯罪の処理――などがある。同紙によると、「非常にまれ」ではあるが、同機関が司法権を行使する場合もあるという。加えて、香港の学校で国家安全保障関連の教育を監督する権限も与えられる。新法と香港の基本法との間に矛盾がある場合、前者が優先されるという。
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官はフェイスブックで、「香港は、中国の国家安全保障を脅かす外部勢力のとりでにはならないだろう」と述べている。
ICCは次のように警鐘を鳴らす。
「中国の悪名高い法制度とその透明性の欠如により、誰でも容易に犯罪者とされ、刑務所に入れられる恐れがあります。王怡(ワン・イー)牧師や覃德富(クイン・デフ)長老、ジョン・カオ牧師ら、中国の多くの牧師や信徒が『国家政権転覆扇動罪』『違法な国境通過』『違法なビジネス活動』といった捏造(ねつぞう)された容疑で投獄されています」
前フロリダ州知事のリック・スコット米上院議員(共和党)は21日、ツイッター(英語)に次のように投稿。中国政府を批判し、香港への連帯を示した。
「中国共産党が香港の人権と自治を破壊する使命を継続中。基本的権利のために戦う人々を抑圧し、脅そうとする中国の意図は明らか。米国は香港市民を引き続き支持する」