香港警察は11日までに、カトリック香港教区の元司教で現在は名誉司教の陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿ら4人を、香港国家安全維持法(国安法)違反の容疑で逮捕した。陳枢機卿は2009年まで教区のトップである司教を務め、中国政府の宗教弾圧を批判してきたほか、香港の民主派を長年支持してきたことで知られている。
AP通信(英語)によると、香港警察は逮捕した4人の名前を公表していないが、19年の民主化デモの参加者らを支援する「612人道支援基金」の運営に関与していた45歳から90歳までの男2人と女2人だとしている。また4人について、外国または外国機関に対し、香港への制裁を要請し、国家の安全を危険にさらした疑いがあるとしている。同基金は昨年10月、香港警察が寄付者や受益者などの情報を引き渡すよう要求したことを受け解散している。
香港の新興メディア「香港フリープレス」(英語)によると、陳氏の他に逮捕されたのは、弁護士の呉靄儀(マーガレット・ヌ)、歌手で活動家の何韻詩(デニス・ホー)、文化研究学者の許寶強(ホイ・ポークン)の各氏。陳氏ら3人は11日に逮捕され、許氏は10日に欧州へ向かうため香港空港にいたところを逮捕された。このうち、陳氏は90歳、吾氏は74歳と高齢だ。
香港フリープレスは、11日午後11時ごろに警察署から保釈される陳氏の様子を写真付きで報じている。5人に付き添われた陳氏は片手に杖と水筒を持ち、何も語らぬまま警察署の外に停車していた車に乗り込み、その場を離れたという。
AP通信によると、バチカンのマテオ・ブルーニ報道官は、「陳枢機卿の逮捕のニュースを、懸念を持って受け止めており、細心の注意を払って状況の推移を見守る」と述べた。
香港警察はこれまでも、国安法を用いて中国に批判的だった香港紙「リンゴ日報」を廃刊に追い込んだほか、民主派の活動家らを多数逮捕している。一方、同法が成立したのは20年6月で、今回の逮捕は同法成立以前の行為が対象となった可能性がある。そのためAP通信は、「香港におけるあらゆる形態の異論に対する包括的な弾圧をさらに拡大するもの」であり、懸念が強まるとしている。
陳氏は国安法成立時に発表した談話で、「妥当で適切な発言が新法(国安法)に反するとみなされるのなら、私は訴追や審議、拘束にすべて耐えるつもりです。数多くの前任者も同じように耐えてきました。神がその方々を常に助けてくださったことを私たちは見てきました」と述べていた(関連記事:元香港司教、国安法めぐり談話発表 「逮捕や裁判に直面する覚悟ある」)。
一方、今回の逮捕に先立ち、今年2月には、香港の親中紙「大公報」が、19年の民主化デモを扇動したとして、陳氏や香港の教会を批判する一連の記事を掲載。新たな弾圧を予告するものではないかと懸念する声が上がっていた(関連記事:香港親中紙、元香港司教や教会の批判記事掲載 信教の自由制限も示唆)。