デカルトによる神の存在証明
デカルトという人は、コギトアルゴスム「我思う、ゆえに我あり」という有名な哲学的真理を発見した人物です。
デカルト以前のヨーロッパ世界において、人々は常識的にあるものはあるし、無いものは無いと考えていました。視覚的なものに関しては、目の前の机や椅子であり、不可視的なものに関しては、空気や神(GOD)などについてです。これらは常識的に考えるまでもなく存在するものとして、その上に様々な学問を構築していったわけです。
しかしデカルトはそれに対して、このように異を唱えました。
「目の前の机や椅子が存在すると、なぜ絶対に言い切られるのだい? もしかしたら、私たちを騙す悪い霊がいて、私たちにそれらのものがあると思い込ませているだけで実際は無いかもしれないじゃないか?」
ぶっとんだ発想ですね、さすが大哲学者です。彼は悪い霊がいると断定したわけではないのです。上述のような可能性がいくら低いとしても、0・00000000000000000000000000001%だとしても、0とは断言できないじゃないかと主張したのです。
そう言ってしまうと、地球も月も太陽も、両親や家や、空気や神や一切合切が、突然その存在の確からしさを証明できなくなってしまいます。
「でも」と彼は世紀の大発見をします。それは、「全ての存在が証明できないとしても、今あれこれ考えている自分自身は必ず存在しているはずだ!!」というものです。
彼は自分が人間として存在していると証明したのではないのです。自分は悪い霊に騙されて人間だと思い込んでいる犬かもしれないし、脳みそだけが生命維持装置のような物によって生かされている奇怪な存在かもしれないけれど、とにもかくにも何らかの形で思考する自分が存在していることだけは疑いようのない事実だ!! というわけです。それが冒頭のコギトアルゴスム「我思う、ゆえに我あり」です。
このデカルト以降、それまで「神の存在」がヨーロッパの学問の中心であり常識であり、世界の存在の理由であり原因であったのですが、人間中心哲学へと移行していくのです。
では、デカルトは神の存在を否定する無神論者であったのでしょうか。事実はその全く逆です。実は彼はコギトアルゴスムの発見とは別に、神の存在証明をもしているのです。その概要もやはりとてもシンプルなものです。それはこのような感じです。
「この世の中に完全・無限という観念が存在する。そしてその観念は不完全で・有限な人間からは発生しえない。しかし、観念があるからには、その本質が存在しなければならない。つまり、完全・無限な観念の本質である方が存在しなければならない。ゆえに完全・無限な存在なる神は存在する!!」というものです。
しかし残念ながら多くの人は、デカルトの前者の哲学的発見だけを熱狂的に受け入れ、後者のそれを知りません。このデカルトの神の存在証明だけで、十分に神の存在が説明され得るかは分かりませんが、少なくとも彼が神の存在の証明を試みたという事実だけは知っておくべきでしょう。
そもそもデカルトは、椅子やテーブルや自己以外の万物が存在しないかも知れないという僅かな可能性を強調することによって、絶対に存在する「思考する自己」を説いただけで、その他のものが存在しないことを証明したわけではないのです。しかしどういうわけか、一部の人たちはそのわずかな可能性を梃子に、椅子やテーブルの存在をことさらに否定することはしないのに、神の存在を全力で否定しはじめたのです。それは一体、なぜでしょうか。
そもそも人は基本的に自分の見たいものしか見られないし、受け入れたいことしか受け入れられないものです。そして不思議に思うかもしれませんが、多くの人にとって、神はなるべく存在して欲しくない存在なのです。その理由に関しては、また今度書かせていただきたいと思います。
次回は、デカルトによる「神の存在証明」よりは分かりやすい、ニュートンによる「神の存在証明」の話をさせていただきたいと思います。
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山崎純二(やまざき・じゅんじ)
1978年横浜生まれ。東洋大学経済学部卒業、カナタ韓国語学院中級修了、成均館大学語学堂(ソウル)上級修了、JTJ宣教神学校卒業、ブルーデーター(NY)修了、Nyack collage-ATS M.div(NY)休学中。韓国においては、エッセイコンテスト「ソウルの話」が入選し、イ・ミョンバク元大統領(当時ソウル市長)により表彰される。アメリカでは、クイーンズ栄光教会に伝道師として従事。その他、自身のブログや書籍、各種メディアを通して不動産関連情報、韓国語関連情報、キリスト教関連情報を提供。著作『二十代、派遣社員、マイホーム4件買いました』(パル出版)、『ルツ記 聖書の中のシンデレラストーリー(Kindle版)』(トライリンガル出版)他。本名、山崎順。