星野ひかり
千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。 ■ 星野ひかりフェイスブックページ
千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。 ■ 星野ひかりフェイスブックページ
私は今朝も、早く起き過ぎてしまいました。まだ世界には陰りがあり、太陽の光に照らされるまで、時間はたっぷりあるようです。鳥たちもまだ眠っているのでしょうが、静寂の中に虫たちの声が混じっているような気がします。
「お父様、どうして私ばかりぶつの?」そう言う私は幼子で、拳を振り上げる天のお父様を見上げていました。私は涙をぽろぽろと流しておりましたが、お父様の目も、熱い涙でうるんでいるようでした。
トモコは、一歩歩くごとに街灯の明かりに反射して道を照らしてくれる、水銀色のアスファルトを見つめていました。もうどれほど歩き続けたことでしょうか。ヒールのあるサンダルを履いてきてしまったことを後悔しました。
厚く切ったバゲットに熱々のガーリックオイルを垂らして頬張ると、なぜかため息が漏れました。‘もうあとはないぞ’ 耳元で誰かがささやきます。テーブルの上には、先日の婚約式で婚約者の母からもらった花が咲いていました。
「ずいぶん物好きがいるもんだな」。夫は新聞をめくりながら、つぶやきました。「自分の娘のことを、よくそんな言い方ができるわね」。ミチコは大根を切る手を止めて、むきになって言いました。
地の一体に、闇が広がっておりました。へどろのように重い闇が、この世界を覆い尽くそうとしておりました。闇は暗い声で、ささやいておりました。「友達よ」。そして誘っておりました。「この虚無へおいで、そしてその日の悦楽を愉(たの)しもうではないか」
冷たいものに手首をつかまれ、暗い所に引きずり込まれることを感じました。暗い所は底が見えないそれは恐ろしい暗闇で、ケンジのことを、口を開けて待っています。その力にあらがって、叫んだ声で目を覚ましました。
6畳の洋間とベージュ色のユニットバス、小さなキッチン。ささやかな部屋でありました。窓際に寄せた勉強机には、アンティーク調の縁取りの写真立てが大切そうに飾られており、サキの愛した大伯母が満面の笑顔でサキを見守っていてくれました。
田舎町の薄暗い路地裏の、小さなスナックの電飾は置き忘れられたように今日も灯っておらず、ほこりがかぶり始めていました。木目調の扉には張り紙がしてあり、「しばらくお休みさせていただきます」とペン字で書かれておりました。
ハナはベッドにねそべり、ガーゼのケットをかぶってまどろんでおりました。神様に祈りたいのに、からだも心も疲れており、指を組むことさえできませんでした。もともと丈夫なほうではないハナには、日々の家事とささやかな仕事さえつらいものでありました。
悪がケンの体にまとわりついておりました。牧師の言葉を信じて、生まれ変われる希望を何度も持ちました。しかし、それでもケンは、肉に染み付いた罪のままに、人を陥れ、自分を傷つけるような暮らしぶりを繰り返してしまうのです。
ミキは家族の寝静まった深夜に、台所の明かりをたよりに聖書を読んでおりました。1章読み終わると、息をついて「神様、感謝します」とつぶやきました。聖書を胸に抱き、今までの人生を顧みました。
アキラの勤めるケアホーム「ひかりの家」では、誕生日会の準備の真っ最中です。折り紙の輪っかを飾りつけ、ペーパーフラワーをリビングの壁にテープで止めて、安っぽくはありましたがお祝いの雰囲気を作っています。
大都会の真ん中の、夜景のきれいなカフェテリアに、タエは一人でおりました。夜中の2時を過ぎても、街はネオンにあふれて活気に満ちて、人は道を行き交っておりました。
人はどれほどみじめなものだろうか。人はどれほど恥ずべき土くれだろうか。みじめな愛から生まれてきた。みじめな愛を故郷として、父母のもとから生を受けた。同じように生きている。神から顔を背けて。
明けの空の色がみるみると変わってゆく中を、小鳥のさえずりが響き始めました。花壇の葉の先には朝露の結晶がきらめいています。凍てつく夜に耐え忍んだ野良猫たちは、遠い地平の朝日を見て安堵しました。
今よりもっと幼い頃のことを、タイジはよく覚えていました。タイジは里山に囲まれた田舎町に生まれ育ち、自然が好きな夫婦のもとで育てられ、幼い頃から田んぼで泥んこになってザリガニ採り、木登り、野だぬきと追いかけっことやんちゃのし放題で育ちました。
リエはベッドに腰かけ、ライティングデスクを引き寄せて聖書とノートを開きました。開いたのは詩編・・・毎朝4時には目が覚めてしまうリエは、詩編を書き写しながら明かりのつく6時までの時間を過ごしていたのです。
「信仰! 信仰! 人がどう言っているかではなく、神様がどう言っているかだ! 僕は神様の息子なんだ!」そう言ってほほを打っていたのは、もう50歳になろうとしている一人身のシュンでした。
澄み切った冬の風が音を立てながら吹いています。空は群青色、まだ夜が明ける前、すべてが寝静まった神秘の時間。野良猫たちも鳩たちも身を寄せ合って寒い夜を耐え忍び、ふと空の色がみるみると多彩な色彩を帯びながら変わってゆくのに目を留めます。