昨年10月下旬、英国議会は297対110で、中絶クリニックの外で祈りと助言をすることを違法とする修正案を可決した。驚いたことにこの修正案では、たとえ黙祷で祈ったとしても、最高で6カ月の禁固刑に処されるのだ。
現在の英国では、ボーンスプルース(胎児の命尊重)派の活動を取り締まるため、公共空間保護命令(PSPO)を拡大適応している。これにより自治体は、中絶クリニック周辺150メートルの公道に緩衝、検閲地帯を設け、ボーンスプルース派の活動を著しく制限している。この禁止リストには、なんと個人の黙祷すらも含まれるのだ。その結果12月6日、慈善活動家のイザベル・ボーンスプルース氏が逮捕された。
警察がバーミンガムの中絶クリニックの近くに立っていたボーンスプルース氏に声をかけたとき、彼女は何のプラカードも持っておらず、警官に声をかけられるまで一言も発していなかった。警察が職務質問したのは、ボーンスプルース氏が心の中で祈っていると疑う通報を受けてのことだった。
「心の中で祈っただけで、身体検査され、逮捕され、尋問され、起訴されるなんて、とんでもないことです。検閲地帯はハラスメントを禁止すると称していますが、これはすでに違法です。ハラスメントはいけませんが、私がしたことは、有害なことから最も遠いことです。私は、個人の心の中で思想の自由、宗教の自由を行使したに過ぎません」とボーンスプルース氏は言う。
バーミンガム市当局が導入した検閲区域のPSPO法では「口頭または書面による手段、祈り、カウンセリング」を含め、中絶に関連して、承認または不承認の行為に関与していると見なされる個人を犯罪とするものだ。
彼女は3度、中絶施設が閉まっている間にその近くに立ち、「祈っていたかもしれない」と述べている。彼女は、警察から中絶施設の外にいる自分の写真を見せられ「この写真のあなたは祈っていましたか」と質問され「答えられません。ある時は祈り、ある時は気が散って、昼食など他のことを考えていましたから」と返事した。彼女は、これらの思考はどちらも等しく、平和的な普通の行為で、どちらも犯罪にされるべきではないと主張している。
ボーンスプルース氏を支援する法律団体、英国自由保護同盟(ADFUK)は、彼女の代理として声明を出した。
「イザベルの経験は、私たちが苦労して勝ち取った基本的な権利は守られるべきだと信じる全ての人々にとって、深く憂慮すべきものです。法律が自治体にこれほど広範で説明不要の裁量権を認めるとは、本当に驚くべきことです。今では思考や考えでさえも『間違っている』と見なされれば、屈辱的な逮捕や刑事告発につながるのです」
「成熟した民主主義は、犯罪行為と憲法で保護された権利の平和的行使、これら両者を区別することができるはずです。イザベルは善良な女性であり、弱い立場の女性や子どもたちに慈善的な支援をすることで、たゆみなく地域社会に貢献してきました。その彼女が凶悪犯罪者と変わらない扱いを受けているのです。最近増えている緩衝地帯に関する法律や命令は、わが国における分水嶺(れい)となるものです。私たちは、わが国が言論の自由という権利の平和的行使を保護することを約束する、真に民主的な国であるかどうかを自問自答しなければなりません。私たちは無意識のうちに『多数派の専制政治』を受け入れ、それが常態化し、さらには助長する社会へと突進する重大なリスクにさらされています」
ボーンスプルース氏は、英国マーチ・フォー・ライフのディレクターであり、危機的な妊娠をした女性を支援するために長年ボランティア活動を行ってきた。
「私は、自分の人生の大半を、危機的な状況にある妊娠中の女性たちのためにささげてきました。彼女たちが母親になる力強い選択をするために、必要な全ての支援を惜しみませんでした。また、中絶を経験し、その結果に苦しんでいる女性たちの支援にも携わっています。長年にわたって支援した多くの女性たちと親しくなり、さらに多くの女性が毎日このような経験をしていることを知り、心が痛みます。私の信仰は、私自身の中心的な部分です。ですから、中絶施設の近くに立って、あるいは歩いて、この問題について祈ることがあります。この20年ほど、ほとんど毎週、私はそれをしてきたのです。中絶を経験した友人や、これから中絶しようと思っている女性のための祈りです」
ボーンマスで昨年11月下旬、ある女性が検閲地帯の外で祈ったために当局から立ち去るよう勧告されたが、ボーンスプルース氏の逮捕は、この事件に続くものだ。また2021年には、リバプールで高齢女性が散歩中に中絶施設の近くで黙祷したために逮捕され、罰金を科された事件が起きた。この訴えは、黙祷した女性の人権侵害として、判決は覆された。
現在ウェストミンスターでは、国会議員がイングランドとウェールズに検閲区域を導入するための法案を検討している。議会で審議中の公共命令法案第9項では、中絶施設の周辺でプロライフのボランティアが「影響を与える」「助言する」「説得する」「情報を与える」「場所を占める」「意見を表明する」ことさえ禁止するとしている。規則に違反した者は、最高で2年の禁固刑に処される可能性がある。
中絶施設外でのプロライフ活動に関する2018年の政府報告では、嫌がらせの事例はまれで、このような極端な取締法を導入せずとも、警察はすでにそのような活動で嫌がらせをする個人を起訴する権限を持っていることが判明した。
また、プロライフグループの最も一般的な活動は、静かな祈りや黙祷、または中絶に代わる選択肢を検討したい女性が利用できる慈善支援に関するリーフレットを提供する、全く無害なことばかりだというのが明らかになった。
この法案の検閲規定は、英国自由民主党のビース卿を含む貴族院議員からの批判を浴びている。彼はこの条項を「私がこれまで見た英国の法律の中で最も深い言論の自由への侵害である」と述べた。
ファーマー卿はこの条項について「根本的な欠陥がある」とし、「通りすがりに、祈りの抗議者らを見てごらんなさい。それは無害で、主に女性の年金生活者の小集団であることが分かります。なぜそれを禁止し、黙らせなければならないのですか」と加えた。
この条項に対する国会議員の投票直後に国務次官が、これは欧州人権裁判所で保護されている条約上の権利に「適合しているとは言えない」と認める声明を出して、大きな議論を呼んでいる。
プロチョイス派(中絶擁護派)のクレア・フォックス男爵夫人でさえも「問題ごとに抗議の禁止を設けることは、法律を作る方法として適切ではありません。これは必然的に他の案件や他の論争などとの関連で、言論、表現、情報共有、集会、保護された信念の保持を妨げようとする試みを導く前例となります」と、法案の問題点を指摘している。
ボーンスプルース氏は2月2日、法廷に出廷する。彼女の裁判のために祈ろう。
現在英国では「胎児の命の尊厳」ばかりか、思想信条、言論の自由が大きく損なわれようとしている。全体主義の到来は、些細な自由の侵害から始まる。目を覚まして共に祈ろう。胎児の命、人々の救霊、また英国の自由が守られるように祈っていただきたい。
■ 英国の宗教人口
英国教会 36・2%
プロテスタント 8・3%
カトリック 8・6%
無神論 34・5%
正教 1・1%
ユダヤ教 0・4%ボーンスプルース