米国カトリック司教協議会(USCCB)は、ジョー・バイデン氏の大統領就任を受けて事前に流れていた憶測とは裏腹に、中絶推進派政治家の聖体拝領禁止をあからさまに要求しない文書を承認した。
米国の司教らは17日、秋期総会でUSCCBの教理委員会が作成した文書「教会生活における聖体の秘跡」(英語)を圧倒的多数で承認した。反対票を投じた司教は8人のみで、222人が賛成、3人が棄権した。
中絶推進派のカトリック政治家であるバイデン氏が今年1月、大統領に就任したことで、米国のカトリック指導者の間では、中絶を擁護するカトリック公職者の聖体拝領の是非に関する議論が高まっていた。
承認された文書は、バイデン氏をはじめとするカトリックの中絶推進派政治家の名前に言及することもなく、中絶を擁護する政治家は聖体拝領を拒否されるべきだとも述べていない。
「中絶」という言葉は一度だけ言及されており、「殺人」「安楽死」「大量虐殺」といった言葉と共に、「いのちそのものに反する」行為であると記述されている。
一方で、「何らかの公的権限を行使する者は、教会の信仰と道徳律に沿って良心を形成し、人間のいのちと尊厳を守ることによって、人間家族に奉仕する特別な責任がある」と指摘。「特に信者の役割は、社会的関係性をキリストの愛に沿って変革することであり、それは客観的な共通善のために働く行動の中で具体的に実行される」と書かれている。
「キリスト者として私たちは、人間のいのちと尊厳を促進し、私たちの中で最も弱い立場にある人々、すなわち、胎児、移民や難民、人種的不正義の犠牲者、病人や高齢者を愛し、保護する責任を負っている」
文書は特に、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより教会が一時的に閉鎖されたことや、参加者同士の距離を置いたミサが続いていることを踏まえ、「教会生活における聖体の重要性」に主眼を置いている。
「多くの信者は、このような長い離別によって、信仰と聖体への願望が強められたようだ」とし、「同時に、司牧者として私たちは、長い間ミサのない生活をしてきた人々が、聖体のない生活に落胆したり、慣れてしまったりしているのではないかと感じている。多くの点で、パンデミックはまだ私たちと共にある」と述べている。
USCCBは6月の春期総会で、聖体拝領を中心テーマとした文書の作成を賛成168、反対55、棄権6で承認。文書が中絶推進派の公職者に対して聖体拝領を拒否する内容になるのではないかという憶測が流れていた(関連記事:バイデン米大統領の聖体拝領拒否の可能性も 米司教協議会が議案承認)。
そのため、文章作成を決めた採決後、カトリックの下院民主党議員ら60人近くが、「聖体の秘跡は実践的なカトリック信者の生活の中心であり、女性の安全で合法的な中絶へのアクセスを支持する民主党議員に対して聖体を武器にすることは矛盾している」とする声明に署名した。
しかし、サンフランシスコ教区のサルバトーレ・コルディレオーネ大司教をはじめとする一部の人々は、中絶を支持するカトリック政治家は、中絶を支持していることを理由に聖体拝領を控えるべきだと主張している。コルディレオーネ大司教は最近のコラムで、「善良なカトリック信者でありながら、罪のない人間を殺す政府公認の権利を拡大することを支持することはできない」と書いている。
このような報道や懸念に対して、USCCBはすでに6月、Q&A形式の文書を発表。聖体に関する文書において、中絶推進派の政治家が聖体を受けることを禁止する議論には触れないことを明確にし、次のように述べていた(関連記事:中絶推進派のカトリック政治家の聖体拝領を禁止するものではない 米司教協議会が見解)。
「公職に就いているかどうかにかかわらず、カトリックは皆、継続的な改心を求められており、米国の司教団は、人間のいのちと尊厳、その他のカトリックの道徳的・社会的教義の基本原則を支持する義務があることを繰り返し強調してきました」
「政治家の聖体拝領を禁止するような方針が全米規模で取られるようなことはありません。その意図は、教会の教えを明確に理解し、聖体がいかに私たちの人生を変え、創造主と、創造主が私たちに望んでおられる生き方に、私たちを近づけることができるかについて、信者の意識を高めることにあります」