中絶反対を訴える「マーチフォーライフ(いのちの行進)」が18日、カトリック築地教会(東京都中央区)を出発点に行われた。さまざまな年齢や性別、国籍の人たちが参加し、日比谷公園までの約1時間の道のりを、「小さないのちを守ろう」「中絶やめよう」などと書かれた横断幕やプラカードなどを持って練り歩いた。
マーチフォーライフは、米連邦最高裁が1973年、中絶を憲法上の権利とした「ロー対ウェイド」判決を出したことを受け、翌74年から米首都ワシントンで始まった。毎年、判決が出された1日22日に合わせ、中絶反対を訴える大規模集会や行進が行われてきた。
日本のマーチフォーライフは2014年に始まり、「産みの日」にかけて「海の日」に毎年開催されている。今年は、6月に約半世紀ぶりに「ロー対ウェイド」判決が覆されたことを受け、同判決がもたらしたのは中絶を積極的に肯定する「死の文化」だったとし、中絶を選択しない「いのちの文化」を訴えた。また、日本でも承認が迫っている経口中絶薬については、海外では一般的に使用されているものの、重大な副作用のリスクがあることは変わらないとし、「中絶しないことが一番安全な選択肢」と訴えた。
日本のマーチフォーライフ実行委員会代表でカトリック信徒の池田正昭さんは、日本人の多くは、中絶は望ましいことではないが、仕方がない場合もあるという考えではないかと指摘。一方、プロライフ(Pro-Life)とプロチョイス(Pro-Choice)の対立は、中絶の絶対的な禁止を訴える人々と、場合によっては中絶を認めるべきとする人々の対立のように見られがちだが、中絶を積極的に肯定するプロアボーション(Pro-Abortion)の人々もいると説明。自分たちの役割は、中絶を肯定し、人々を中絶に向かわせるプロアボーションの価値観に反対することだと伝えた。
中絶問題の議論では、レイプ被害に遭った場合などが引き合いに出されることが多いが、池田さんは、そうした事例は全体では少数で、日本では経済的な理由により中絶を選ぶ人々も一定数いると指摘。「中絶問題は貧困問題という側面もある」と語った。また、レイプ被害のような場合であっても、「中絶しないよう強制することはできないが、中絶しない選択肢もあることは伝えたい」と語った。
池田さんと共にマーチフォーライフに初期から関わっている実行委員の若林晋(さかえ)さんは、「宗教に関係なく、中絶はできるだけない方が良いと思っている。安易に中絶を選んでしまう社会ではなく、安心して子どもを産み、育てられる社会にしたい」と話した。また、中絶を女性の権利とする考えについては、「いろいろな事情でつらい思いをし、中絶を選択せざるを得ないのかもしれないが、お腹の子のいのちを奪うことを権利とするのは、また違うと思う」と語った。
今年が2回目の参加だというプロテスタント信徒の高井群さんは、池田さんと共に日本のマーチフォーライフ開催を呼びかけた「⼩さないのちを守る会」前代表の辻岡健象牧師から話を聞いたのをきっかけに、教会の仲間たちと共に昨年9月、NPO法人「ライフバトン」を設立した。現在は、思いがけない妊娠に悩む女性たちから相談を受けたり、妊産婦向けのシェルターを運営したりするなどしており、将来的には養子縁組の斡旋(あっせん)もできるようにしたいと考えている。
高井さんは、「思いがけない妊娠をする人の中には、誰にも相談できずに悩んでいる人や、突然のことで情報も少なく不安や混乱の中にある人もおり、そうした人たちが安心した空間で、授かったいのちについてもよく考えられるようにしたい。すぐに中絶を選ぶのではなく、養子縁組に出す方法もあり、いのちを選択できると最終的にはみんなが笑顔になると思っている。そこにつなげる働きをできればと思っている」と話した。
日本のマーチフォーライフでは、2年前から国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)に、18番目の目標として、胎内にいる生まれる前の子どもも守ることを追加するよう訴えている。SDGsは「誰一人取り残さない」を理念として掲げているが、生まれる前の子どもも取り残してはいけないとし、中絶反対を訴えるほか、体外受精などの生殖補助医療で生じる余剰胚の問題にも焦点を当てるなどしている。