米国など世界32カ国は10月22日、「中絶を行う国際的権利はない」と言明する「ジュネーブ合意宣言」(英語)に署名した。
米国、ブラジル、エジプト、ハンガリー、インドネシア、ウガンダの6カ国が共同提案国となり、宣言では女性の健康保護や家庭の強化を訴えている。新型コロナウイルスの感染拡大により、署名は当初予定されていた世界保健機関(WHO)の世界保健総会(スイス・ジュネーブ、5月18~19日開催)ではなく、オンラインによる多国籍式典で行われた。
米保健福祉省のホームページ(英語)によると、宣言に署名したのは、共同提案国の6カ国に加え、バーレーン、ベラルーシ、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ジブチ、エスワティニ、ガンビア、ハイチ、イラク、ケニア、クウェート、リビア、ナウル、ニジェール、オマーン、パキスタン、ポーランド、サウジアラビア、セネガル、南スーダン、スーダン、アラブ首長国連邦(UAE)、ザンビアの26カ国。
宣言は、社会の構成員すべてに保健医療サービスを提供する「ユニバーサルヘルスケア」(普遍主義的医療制度)や、女性の権利と男女間の格差是正など、国際社会にとって重要な課題に触れるとともに、中絶反対の姿勢を鮮明にしている。
「中絶を行う国際的権利はなく、中絶に資金提供したり中絶を促進したりするいかなる国際的義務もない。これは、各国が法律や政策に沿ったプログラムや活動を実施する主権を有するという積年の国際合意と一致している」と宣言はつづっている。
その上で、「人間本来の『尊厳と価値』、『すべての人間には生まれながらにして生存権がある』こと、また『女性が安全に妊娠や出産をすることができ、夫婦には健康な子どもを持つ絶好の機会を提供できるようにする』」決意を再確認。1948年に国連総会で採択された世界人権宣言を多くの箇所で参照している。
また「いかなる場合においても、家族計画の手段として中絶を促進してはならない」とし、「医療制度内での中絶に関連する処置や変更は、国の立法過程に従って国家または地方レベルでのみ決定できる」ことを強調するとともに、「子どもには、出産前後に特別な保護措置やケアが必要だ」と訴えた。
米国のマイク・ポンペオ国務長官は調印式直後に公開されたアレックス・アザー保健福祉長官との共同声明(英語)で、「トランプ大統領の指揮下で、米国はいついかなる場所においても人命の尊厳を擁護してきた。トランプ氏は米国史上、他の大統領には類を見ない形でこのことを成し遂げた」とし、「われわれは、海外の胎児に関しても前例のない保護を実施した」と述べた。
ポンペオ氏は、宣言は「女性の健康を擁護し、胎児を守り、社会基盤である家庭の死活的な重要性を繰り返し伝えている」とした上で、宣言への署名は、トランプ政権における国際的プロライフ(中絶反対)活動の「次のステップ」との考えを示した。
一方、アザール氏は声明で「(宣言は)信仰告白以上のもの」だとした上で、「世界中の女性が健康上の問題で不必要に苦しんでいる。しかもあまりにも多くの場合、それは死に至る健康問題であるにもかかわらず、あまりにも多くの裕福な国々や国際機関が、多くの文化にとって不快であるだけでなく、女性の健康にまつわる優先事項の合意を逸脱させる過激な議題に対して近視眼的な見方をしている」と失望感を表明した。
その上で「今日、われわれは明確な指標を設定した。国連の諸機関はもはや、説明責任を抜きにして合意済みの文言を再解釈したり、誤った解釈を施したりできない。国連が追求すべき方針を設定したのは国連加盟国だ。その逆ではない」と強調した。
トランプ政権は昨年、「家庭の役割を弱体化させた」と非難した上で、国連の文書の一部から中絶に賛同する文言を削除するよう要請。今年初めには、新型コロナウイルス対策に乗じて国連が加盟国に対し、中絶に関する法改正に向けた圧力をかけているとして、強く非難した。
その一方で、国際社会における中絶の促進は非政府組織の間でも進んでいる。人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」は最近、中絶に関する方針を変更し、出生の瞬間直前までの無制限な中絶を認める立場を表明した。