62年前、エディ・ボチェッリという名の若いイタリア人女性が虫垂炎で入院した。彼女は当時、第一子を妊娠していた。担当医からは「胎児は何らかの障がいを持って生まれてくるだろう」と言われ、中絶を勧められた。敬虔なカトリック信者であったエディはそれを拒否したが、医師の診断は正しかった。息子のアンドレアは先天性緑内障を持って生まれ、12歳になるころには全盲になった。
視力は失ったが、アンドレアには別の賜物があった。その賜物は際立っており、後に「世界一の美声」と言われるようになる。そう、彼は全盲の世界的なテノール歌手であるアンドレア・ボチェッリだった。グラミー賞を5回も受賞しているカナダ人歌手、セリーヌ・ディオンは言う。「もし神が歌声を持っているとしたら、アンドレア・ボチェッリのような声をしているに違いありません」と。
事実、ボチェッリのアルバムはこれまでに計9千万枚以上売り上げている。1999年のアルバム「セイクリッド・アリアズ~アヴェ・マリア」は、クラシック歌手によるソロアルバムとしては史上最高の売上数を誇っており、95年のシングル「コンテパルティロ(君と旅立とう)」は空前絶後のベストセラーとなり、ボチェッリはレディー・ガガやマルーン5、アデルらと名を連ねる存在となった。また、ボチェッリは複数の大統領や首相、教皇のために歌声を披露してきた。米ピープル誌の「世界で最も美しい50人」の一人に選ばれたこともある。
ボチェッリは2010年、「アンドレア・ボチェッリ:心に触れる未知の物語」(イタリア語、英語字幕)と題した動画の中で母親の話をしている。ボチェッリはピアノを奏でながら、母親が中絶しない選択をしたことに言及した上で、「その女性は私の母で、私はその子どもです。私は特定の信条にこだわっているのかもしれません。しかし、それは正しい選択でした」と語っている。
CNA通信(英語)によると、ボチェッリはイタリアのイルフォグリオ紙に対し、ハイチで子どもたちのために奉仕する宣教師や、困難な妊娠に直面している女性たちから、母親の話を公にするよう勧められたと語っている。「敬虔なカトリックとしての私の個人的な信条の故に、私は何かに反対して闘うことがありますし、何かを支持して闘うことがあります。私は命を支持しています」とボチェッリは言明している。
動画は口コミで広まった。ボチェッリは、「(この動画が)困難な状況にある人々、時には自分は一人ではないのだと感じる必要のある人々を慰めるのに役立つ」ことを望んでいると話す。ボチェッリの物語は、妊娠ケアセンターの働きが重要であることを思い起こさせてくれる。妊娠ケアセンターの目的は、困難な妊娠に直面する女性たちに自分たちが一人でないことを知らせることだ。妊娠ケアセンターが提供する慰めと支援は、ボチェッリの母親のように、女性たちが命を選択する助けとなっている。
特に一年のこの時期、ボチェッリの物語は、困難な妊娠に直面したイエスの母マリアが果たした役割を連想させる。私たちが忘れがちなのは、神がマリアに「嫌です」と答える選択肢を与えていたことだ。「お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカ1:38)というマリアの返事は、エディ・ボチェッリや他の無数の女性たちが時代を超えて繰り返してきた言葉と類似している。
最後に、「世界一の美声」の持ち主、アンドレア・ボチェッリによる「Gloria a te, Cristo Gesu(キリスト・イエス、栄光はあなたに)」(イタリア語)を紹介したい。
栄光はあなたに キリスト・イエス
あなたは今日統べ治めておられ、とこしえに統べ治める
栄光はあなたに あなたは間もなくやって来られる
あなただけが私たちの希望