迫害監視団体「オープンドアーズ」はこのほど、インドでヒンズー民族主義がキリスト教徒などの宗教的少数派への激しい迫害を引き起こしていると警告する報告書を発表した。それによると、広範囲にわたる暴力や脅迫により、インドのキリスト教徒らは嫌がらせやレイプ、殺人などの危険にさらされている。
オープンドアーズの報告書「破壊的な虚偽―インドの宗教的少数派に対する暴力や差別をあおる偽情報と言論」(英語)によると、インドでは特に農村部でキリスト教徒やイスラム教徒に対する集団的・個人的な差別・暴力・残虐行為を伴った事件が増加している。また「ダリット」と呼ばれるカースト制度最下層や、「アディバシ」と呼ばれる先住民族に対する暴力も増加しており、これらの人々は「恐怖と実存的な危機」に満ちた雰囲気の中で暮らしている。
オープンドアーズはこうした迫害の原因として、「ヒンズートバ」を支持する暴力的なヒンズー民族主義者の存在を指摘する。ヒンズートバとは、インドのアイデンティティーをヒンズー教の観点からのみ定義し、インド固有のものではないすべての信仰や哲学を「非インド的」な国家への侵略者と見なすナショナリズムの一形態。ナレンドラ・モディ首相が党首を務めるインドの最大政党であるインド人民党(BJP)もこれを支持している。
報告書によると、ある女性は、ヒンズー民族主義者の暴徒に腹を蹴られたことで子どもを死産した。また、暴徒から暴行を受けた労働者が、警察によって独房に放置され死亡するという事件もあったという。
オープンドアーズ英国・アイルランド支部の権利擁護部門責任者であるデビッド・ランドラム博士は、報告書の序文で次のように述べている。
「こうした文化的・政治的宗教浄化の動きは、しばしば地球上で最も貧しい人々に向けられ、偽情報や反キリスト教プロパガンダを通じて加速しており、国際的な注視と行動が緊急に必要とされています」
インドではコロナ禍においても迫害は弱ることなく、それどころか、キリスト教徒やイスラム教徒が故意にウイルスを拡散させ、ヒンズー教徒に感染させようとしたという偽情報まで流布されたという。
また報告書は、警察や裁判所、その他の国家機関などが、被害者を助けるどころか迫害を無視し、場合によっては黙認しているとして非難している。警察や裁判所が、暴徒によるキリスト教徒やイスラム教徒への物理的威圧や財産の侵害を容認し、逮捕や抑止を拒否しているほか、故意に証拠を紛失・破棄した例や、単純に証拠の受け入れを拒否した例もあったという。
報告書の共同執筆者の一人は、安全上の理由で名前を明かせないとしながらも、次のように述べている。
「国家機関が暴力に加担していることは衝撃的で、それは現場レベルでも同じでした。官僚、警察、下級裁判所の裁判官、これらすべてが公然と共謀して宗教的少数派に嫌がらせをしているのです。そして、政治家、宗教界のトップリーダー、強力なメディアのオーナーたちは、このような行為が望ましいというシグナルをあからさまに発しているのです」
報告書によると、このような状況は、多くのキリスト教徒が直面している貧困問題をさらに悪化させている。
「インドの都市部や農村部に住む多くのキリスト教徒やイスラム教徒のコミュニティーの日常生活は、生計を立て、信仰を実践しながら、現在インドの公共・政治領域を支配している極右のヒンズートバ組織の目を潜り抜け生き延びる必要があるという、耐え難い闘いと化しています」
この報告書は、ロンドン大学経済政治学院(LSE)がオープンドアーズの依頼を受けて作成したもので、インドに駐在するLSEの調査チームが今年2月と3月にまとめたデータに基づいている。
報告書は提言として、国際的な事実調査委員会を設置し、インドの宗教的少数派に対する暴力や人権侵害のレベルを記録するよう求めている。また、ソーシャルメディア企業に対しては、自社のプラットフォーム上で宗教的少数派に対する差別や扇動、嫌がらせが発生した場合、断固とした措置を取るよう求めている。
その上で、ランドラム博士は次のように訴えている。
「国際社会は、インドで起きていることをもはや無視することはできません。これらの残虐行為を見て見ぬふりをすることはできません。私たちは、この残忍で組織的な宗教的少数派への迫害を徹底的に調査することを求めます」