インド中部のマディヤラデーシュ州で9日、「改宗禁止法」が施行された。インドでは昨年11月、北部ウッタルプラデシ州で同様の州法が施行されたばかり。キリスト教人権監視団体「リリース・インターナショナル」(RI)は、こうした流れがインド全土における伝道禁止につながる恐れがあると危惧している。
改宗を禁止する州法は、マディヤラデーシュ州を含め少なくともインド国内の9つの州で施行されている。しかし同州のものは特に厳格で、警察が令状なしで容疑者を逮捕できるばかりか、保釈制度も適用されず、容疑者自身が自ら無実を証明しなければならない義務があることから、インド国内にいるRIの協力者らは強い懸念を表明している。
条文には次のように記されている。「いかなる者も、直接的あるいは間接的に他者を改宗させてはならず、改宗を試みてもいけない。その手段が不正確な説明や勧誘であっても、武力による脅迫や過度の影響力であっても、威圧、結婚、あるいは他の詐欺的手段であっても、これを禁ずる」
州法の意図は強制的な改宗の防止とされているが、実際にはキリスト教徒による支援物資の配布までも犯罪と見なされているとRIは警鐘を鳴らしている。
ウッタルプラデシ州では州法施行から1カ月後の昨年12月、韓国人キリスト教徒1人とインド人3人が詐欺的改宗を試みたとして、逮捕・勾留された。4人は当時、新型コロナウイルス対策による都市封鎖の影響を受けた人々に食料を配布していただけだったという(関連記事:「改宗禁止法」でキリスト教徒に初の逮捕者、貧困層への支援活動中に インド北部)。
「一見、それは理に適っているかのように見えるかもしれません。しかし、こうした法律は、不寛容と過激主義をあおる道具にすぎないのです」とRIのポール・ロビンソン最高責任者(CEO)は話す。
RIが先ごろ発表した迫害動向調査(英語)によると、インドは迫害が懸念される国の一つで、キリスト教徒への迫害が今年、悪化する恐れがあるという。
ロビンソン氏によると、改宗禁止法はインドにおけるヒンズー教国粋主義の台頭を反映しており、ヒンズー教徒であることとインド人であることを同一視する「ヒンドゥトヴァ」と呼ばれる概念に基づくイデオロギーだという。
2014年にインド人民党が政権を取って以来、ヒンズー教国粋主義は成長を遂げている。そのためインドのキリスト教界では、キリスト教徒に対する襲撃の増加を懸念する声が上がっている。
改宗禁止法が施行された州の一つである中部チャッティースガル州では昨年9月、最大で3千人の暴徒が同州の3つの村でキリスト教徒らを襲撃する事件が発生した。
「インドで改宗を防ぐ動きが出てきた一因は、カースト制の下層階級であるダリットの中でキリスト教を信じる人々が増加していることにあります」とロビンソン氏は続ける。
「その人たちは、いわゆる不可触民です。不可触民はトイレ掃除や道路掃除など、卑しい仕事をするために生まれてきたと多くの人は考えています。当然のことながら、ダリットの多くはキリスト教の愛と受容のメッセージに応答しています」
「改宗禁止法の下では、無実を証明できない限り有罪にされるようです。今は、世界最大の民主主義国家であるインドにとって暗黒の時代です。信教の自由はあらゆる自由の基盤です。信教の自由はインド憲法でも保証されています。その権利を取り除こうとする試みは、世界最大の民主主義国家を保護している憲法に対する違反です」