中国当局が宗教的迫害をエスカレートさせ、礼拝の場を提供した人々にも重い罰金を科している。
カトリック系メディア「アジア・ニュース」(英語)によると、浙江省温州市蒼南県のカトリック信者、黄瑞勲(ファン・ルイクン)さん(56)は3月16日、自身の個人用礼拝堂を、温州教区の邵祝敏(シャオ・ジュミン)司教と信者約20人に提供した。同省はキリスト教徒が人口の10パーセントを占めるとされるほど多い地域で、自宅の敷地内に個人用の礼拝堂を所有する家庭もあるという。
一方、邵司教はバチカン(ローマ教皇庁)からは承認されているが、中国共産党は承認していない司教だった。そのため、黄さんはその後間もなく「(邵司教を)違法な宗教活動のためにもてなし、昼食やトイレなどを提供した」として、20万元(約340万円)という重い罰金を科された。
バチカンと中国は2018年、司教任命をめぐる暫定合意を締結。期限を迎えた昨年10月には、さらに2年延長することを発表している。この暫定合意では、中国政府は、政府公認のカトリック組織「中国天主教愛国会」を通じて新しい司教を指名することが可能で、教皇はその決定に対する拒否権を持つとされている。
バチカンは署名時、暫定合意により推定で100~120万人いるとされる中国内のカトリック信者の団結が促進されることを望むと述べていた。
しかし、中国政府が認めていない非公認のカトリック教会は現在も苦境に立たされ続けており、宗教的迫害はここ数年悪化している。
最近では、カトリック教会が運営する孤児院2カ所が閉鎖された。閉鎖されたのは、いずれも河北省の孤児院で、過去には同省内の別の孤児院2カ所も閉鎖されている。また、2年前には陝西(せんせい)省にあったカトリック女子修道会「聖心の布教姉妹会」運営の孤児院も閉鎖されている(関連記事:中国、障がい児向けカトリック系孤児院を閉鎖 現地司祭がバチカン合意への裏切りと批判)。
地元の司祭は、子どもたちが国営施設に移送された後、「(中国政府は)カトリック教会による見事な貢献と質の高い社会奉仕に目を背けているのです。それだけでなく、その貢献や奉仕を破壊することまで望んでいるのです」と批判していた。
中国の迫害状況を監視する米キリスト教団体「チャイナエイド」が4月に発表した報告書によると、中国における宗教的迫害は2020年に増大し、何千人ものキリスト教徒が教会閉鎖や人権侵害に直面した(関連記事:中国のキリスト教迫害、2020年に増大 米チャイナエイドが報告)。
報告書によると、習近平国家主席の指導の下、中国共産党当局は宗教の監視を強化しており、政府公認か非公認かにかかわらず、国旗を掲揚し、愛国的な歌を礼拝で歌うよう教会に命じているという。また、聖職者に対しては、中国共産党のイデオロギーに合致する「中国化」した説教を伝えるよう指示しているという。さらに、家庭集会に対する強制捜査も行われ、多くのキリスト教徒が、ホームスクーリングを行ったり、子どもたちを教会運営の学校に送ったりしたことで罪に問われ、起訴されている。
キリスト教人権監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)は、中国で今月1日に施行された宗教者に対する新しい行政措置により、宗教的迫害が今後数カ月でさらに増大する可能性があると指摘している。
この行政措置は、中国のすべての聖職者と宗教指導者に対し、「祖国を愛し、中国共産党の指導者また社会主義システムを支援し、憲法、法律、規制、規則に従い、社会主義の核となる価値観を実践し、宗教の独立と自律的管理の原則また中国の宗教政策を遵守し、国家、民族の統一、宗教的調和、社会的安全を維持する」ことを求めている。
ICCは、「政府非公認の地下教会には、取り締まりや嫌がらせを受けることなく存続するための最小限の余地しか残されていません」とし、「国が認めていない宗教活動に参加するキリスト教徒に対する厳罰化が常態化するでしょう」と危機感をあらわにしている。