中国が国内にあるカトリック系孤児院を相次いで閉鎖している。閉鎖された孤児院の大半は、身体や精神に障がいのある子どもたちを収容しており、現地の司祭は、カトリック教会との関係改善を約束したバチカンとの暫定合意に対する裏切り行為だと批判している。
カトリック系のアジア・ニュース(英語)によると、中国では当局が相次いでカトリック系孤児院を閉鎖しており、子どもたちを他の施設に移送しているという。この状況を受け、ウェンダオと名乗る中国人司祭は、孤児院の閉鎖を食い止めるため、ローマ教皇フランシスコやカトリック教会に働き掛けを求めている。移送された子どもたちの多くには障がいがあるためだ。
「政府の高官たちに捨て子の面倒を見る計画などないことは明らかです。彼らは上官の政治的な命令に従っているだけなのです。つまり、中国におけるカトリック教会の影響力を何としても弱体化したいのです」とウェンダオ氏は話す。「このため政府は現在、カトリックの社会奉仕や教会活動を統制しようと躍起になっています」
中国政府は最近、カトリック教会が運営する孤児院を2カ所閉鎖した。閉鎖されたのは、河北省滄州(そうしゅう)市の「聖ヨセフ障がい児の家」と同省石家荘(せっかそう)市の「夜明けの家」。
中国政府はまた、同省の張家口(ちょうかこう)市と正定県にあるカトリック系孤児院も閉鎖しており、2年前には陝西(せんせい)省宝鶏市の孤児院も閉鎖している。この孤児院は、カトリック女子修道会「聖心の布教姉妹会」によって運営されていた。
ウェンダオ氏は、これらの施設は中国の国民ばかりでなく、政府関係者からも尊重され、高く評価されていたと述べている。
「これらの施設は多くの中国人に尊敬され、深く愛されていました。福祉関係の多くの人々が訪れ、奉仕し、教会と社会に対して愛と善意の実を結びました。そうした人々は、主にある『小さき者たち』に仕え、大切にすることを学びました」とウェンダオ氏は言い、これらの施設で世話をされている子どもたちは通常、社会から見捨てられた子どもたちであることを指摘した。
「シスターたちが世話をしている子どもたちのほとんどは、身体的にも精神的にも障がいがあります。その子どもたちには健常者よりも手厚いケアが必要です。親や社会に見捨てられ、身体的にも精神的にも痛みを負っているのです。そうした不正に対して、その子どもたちは声を上げることもままなりません。このような重たい現実を目の当たりにしているにもかかわらず、カトリック教会は沈黙を守り、助けを求める子どもたちの声に耳をふさぐのでしょうか」
中国政府は子どもたちを国営施設に移すことで、「カトリック教会による見事な貢献と質の高い社会奉仕に目を背けているのです。それだけでなく、その貢献や奉仕を破壊することまで望んでいるのです」とウェンダオ氏は指摘する。中国の宗教弾圧・人権侵害を扱うニュースサイト「ビター・ウィンター」(英語)は昨年5月、国営施設に収容された子どもたちは「やせ細り」「元気がない」状態にあると伝えている。
2018年にバチカンと中国の間で暫定合意が結ばれた際、中国のカトリック教会は励ましを受け、「誰もがこの『良き日』を待ち望んでいました」とウェンダオ氏は続けた。
詳細は公表されていないが、この暫定合意により中国政府はバチカン(教皇庁)に対し、政府公認のカトリック組織「中国天主教愛国会」を通じて新たな司教を指名することができるようになったとされ、教皇はその決定に対する拒否権を持つとされている。
しかし、2年の暫定合意が昨年延長されたにもかかわらず、政府非公認のカトリック教会は苦しみ続けており、事実上、宗教的な迫害は悪化している。
ウェンダオ氏によると、中国政府は新型コロナウイルスの感染拡大に乗じて教会に対する規制を強化。こうした取り締まりは学校にも及び、小学校から大学までの教師や学生・生徒らに対し、敷地内で宗教や教会に関係する活動を行わないよう厳しい規制を敷いているという。
「キリストを信じる人たちは中国では少数派です。信者たちが差別されたり、抑圧されたりするのは日常茶飯事です。外の世界が彼らの声を聞くのは困難です」
中国全土のカトリックやプロテスタントの孤児院、また教会が運営するその他の施設の取り締まりは、18年2月に「宗教関係規則」が改定された後から始まった。新しい規則では、「(中国における)公益慈善活動は、いかなる組織や個人によっても改宗させるために使用されてはならない」と定められている。
ビター・ウィンターによると、滄州市政府は昨年5月、地元のカトリック系孤児院の所長に聖母マリアの絵画や典礼カレンダー、その他すべての宗教的シンボルを敷地内にある小さな教会から取り除くよう命じた。所長は教会の使用をやめることを確約する文書に署名するよう求められた上、子どもたちのための宗教教科書の使用も禁止された。当局は「慈善団体が宗教的な意味合いを持つことは許されていない」と主張したという。
19年8月には、民政部や他の政府機関の職員40人余りが山西省太原市のカトリック系孤児院を訪れ、取り締まりを強行。子どもたちを施設から連れ去り、孤児院の指導者を「違法な養子縁組」の実行犯として起訴すると脅迫した。
地元の教会に通う人はビター・ウィンターに対し、「共産党は子どもたちが宗教にさらされることを恐れており、私たちの活動を制限しようとしています。障がい児向けのすべての宗教的孤児院は、将来徐々に姿を消すことになるでしょう」と語った。
キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害のひどい上位50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(英語)で、中国を17番目にランク付けしている。