ナイジェリアの人権団体「インターソサエティー」は16日、同国で今年、イスラム過激派によりキリスト教徒2200人が殺害されたとする報告書(英語)を発表した。報告書は、同国政府が意図的にキリスト教徒の死傷者数を過小報告していると批判。過激派に殺害された場合も、偶発的な強盗や部族間の対立などを原因として報告する場合があるという。
報告書によると、ナイジェリアで2009年以降、イスラム過激派によって殺害されたキリスト教徒は3万4400人に上り、このうち今年1月から12月13日までの間に推計で2200人が殺害された。またイスラム過激派は09年以降、推計で穏健派のイスラム教徒2万人も殺害しているという。
インターソサエティーの創設者で会長のエメリカ・ウメアグバラシ氏は、「この国で政府が行っているのは戦略の立案です。つまり、主要メディアや地元メディア、また民間のメディアに一種の筋書を提供するのです」と言う。
ナイジェリア政府はメディアに対し、イスラム教徒が主体の遊牧民「フラニ族」が砂漠化を逃れて南下し、現地のキリスト教徒主体の農民と衝突する中で農民らを殺害していると伝えている。しかしウメアグバラシ氏によると、フラニ族は過激なイスラム主義者で、実際はキリスト教徒を探し出して殺害するために南下しているという。彼らはイスラム教徒の村は襲撃していない上に、伝統的な放牧方法も農民との致命的な紛争を正当化する十分な理由にはならないという。
ウメアグバラシ氏は、ナイジェリア政府がイスラム過激派を支援しているため、こうした襲撃を隠ぺいしていると訴える。また、イスラム教徒であるムハンマド・ブハリ大統領は、過激なイスラム部族を支援する「ナイジェリア・ミエッティ・アラー牧畜業者協会」(MACBAN)の会員であることも指摘する。
「ブハリ氏は憲法をそっちのけにしています。憲法によらずに任命するのです。憲法は、政府が国教を持つことを禁じています。また、ナイジェリアの軍隊構成は地域的、宗教的にバランスを取るべきだと憲法は明言していますが、大統領はそれに耳を傾けていません」
報告書は、ブハリ氏が政府の上層部にイスラム教徒を次々と任命していることを明らかにしている。ナイジェリアにはイスラム教徒とキリスト教徒がほぼ同数いるにもかかわらず、2015年にブハリ氏が当選して以来、政治や安全保障、立法、司法の各分野において最も重要な39の職務のうち32をイスラム教徒が占めているという。
ナイジェリアでは、主要なイスラム教組織のうち5団体が6月、キリスト教徒に対抗して同盟関係を結んだ。ウメアグバラシ氏は、ナイジェリアにおけるキリスト教徒の殺害は偶発的な暴力行為ではなく、イスラム教のためにナイジェリアを征服しようとする用意周到な試みだと訴える。
「この国はカリフ制に乗っ取られています」とウメアグバラシ氏。「彼らは北部で事を済ませると南下するのです」
襲撃が増えても、ナイジェリア政府は何もしていないと言っても過言ではないと報告書は述べている。政府は一貫してキリスト教徒の死傷者数を過小報告しており、時には、キリスト教徒が襲撃されていないことを世界に示すため、イスラム教徒の葬儀を利用して殺害されたキリスト教徒を葬ることもあるとしている。
報告書はまた、ナイジェリア政府が事件の起きた地域を統括する陸軍司令官や警察長官に記者会見を開くよう内密に指示し、殺人を否定させたり、別の死因を装わせたりしていると批判する。偽装の殺害理由や死因には、「盗賊による襲撃」「ライバル同士の抗争」「複数の王や首長、共同体間の抗争に絡んだ殺害」「報復行為」「カルト関連の殺害」「武装強盗や誘拐で生じた殺害」「路上の事故」などがあるという。
さらに、ナイジェリア政府は軍や警察を派遣して重武装のテロリストを掃討しないどころか、発砲された場合は一時待機した上で撤退するよう軍に命じているとウメアバラシ氏は話す。幾つかのケースでは、ナイジェリア軍がキリスト教徒の殺害に関与さえしたとされている。陸軍に所属している一部のキリスト教徒はウメアグバラシ氏に対し、テロリストと戦うよう兵士らに命じる司令官は配置換えされてしまうため、国は安全になり得ないと話したという。
「フラニ族の殺し屋を射殺したり逮捕したりしないようナイジェリア軍に伝える暗号があります」とウメアグバラシ氏は言う。「クリスチャンの陸軍司令官たちの言葉が私の注意を引きました。司令官たちは、大統領から誰も撃ってはいけない、攻撃を受けた場合は撤退しなければならないと命じられたと話しているのです」