米国建国の歴史と当時の人々の「信仰」を知るための必読書!
今回は2冊当時に紹介してみたい。というのも、今回取り上げる2冊は、米国建国に関する前史(『千年王国を夢見た革命』)と建国時期の人々のメンタリティー(『ピルグリム・ファーザーズという神話』)をコンパクトかつ分かりやすく解説した一般向けの歴史書となっているからである。いわゆる同じテーマを根幹に抱く、前後編のような内容ということである。一気に読むのに最適であるとともに、時代を経ることで当時の人々の「信仰」が深化していくさまを手に取るように理解することができる。
世界史などで「ピューリタン革命」について学んだことがあるだろう。おそらく中学や高校で学ぶこの出来事は、王制から共和制への過渡期として政治的な視点で出来事を解釈することに終始してきたと思われる。確かに「歴史的事実」としてはそれで押さえられるであろうし、出来事をトレースするという意味ではまったく問題ない。だが、当時生きていた人々の内面を探ろうとする場合、政治的な要因だけでこの出来事を片付けてしまうことはできない。むしろ、彼らが「どうしてそう考えたのか?」「なぜそこまでの思い(革命)を抱くようになったのか」を問うには、あまりにも対象との距離が遠すぎると言わざるを得ない。
本書『千年王国を夢見た革命』は、ピューリタンと呼ばれるキリスト信仰の一形態を「真理」と信じた人々が、どうして英国で革命を起こすに至ったか、またどうして本国を離れて新天地アメリカへ移住することを決意したか、を彼らの指導的な立場にあった著名人の手紙や著作を基に、その内面を探るという一面を持っている。
さらに「ピューリタン」と一言で言い表すことのできないさまざまな分派(独立派、第五王国派)についても言及している。そして、代表的な3名を取り上げ、彼らの働きを章立てて紹介している。第3章では、新天地を求めてアメリカ大陸はマサチューセッツ湾植民地で本国のピューリタンたちの精神的支柱となったジョン・コトンを取り上げている。第4章前半では、コトンを師と仰ぎ、いったんは英国を離れるも、後にオランダから帰国したトマス・グッドィンについて語られている。第4章の後半では、グッドウィンと同じようにオランダへ亡命しながらも帰国して、のちに教会の牧師となったウィリアム・ブリッジとその思想が詳述されている。
彼らに共通している信仰形態として、「千年王国論」が1章から2章にかけて紹介されている。つまり、彼らをして英国で、そして後に米国となる英国植民地で行われた一連の革命的活動は、その根底にこの終末論が息づいていた、と著者の岩井氏は喝破(かっぱ)しているのである。
第5章では、ニューイングランド植民地から帰国したウィリアム・アスピンウォルとトマス・ヴェナーを取り上げ、米国で後に行われていく新たな革命(独立戦争)とは異なる道へ分け入っていく英国の模様が描かれている。英国は、王政復古とともに彼ら第五王国派(特にヴェナーに付き従った一派)を過激な武闘派と見なし、打倒していくこととなる。
ピューリタンたちの願いは、ヨーロッパ社会では実現できず、やがて18世紀に新天地アメリカにおいて新たな形態を整えることになる。それが大西氏の『ピルグリム・ファーザーズという神話』において語られ、米国における「建国物語」へとつながっていく。
こちらの副題は、一見すると穏やかではない。「作られたアメリカ建国」ということは、誰かが何らかの意図をもってこの出来事を生み出し、それを歴史化したということになる。本書は、歴史的事実として誰もがトレースできるという意味での「出来事」と、その出来事によって生み出された当時の人々の反応、いわゆる「解釈(または影響)」とを分けて描写している。
人々が口伝承で語り継ぐ物語を「神話」としているが、これは決して「うそ」や「偽り」であることを意味しているわけではない。むしろ実際の出来事が起点となり、それが人々の口の端に上ることで「神話化」されていく過程を丹念に描くことで、この神話が「アメリカをアメリカたらしているのだ」と結論づけているのである。
第1章、2章では、プリマス植民地へ向かうピューリタンたちの動向がコンパクトにまとめられている。この辺りは『千年王国を夢見た革命』を読んでからこちらを読むことをお勧めする。するとピューリタン革命前後の英国と米国(当時はまだ植民地)の様子がよく分かるだろう。本書の白眉は何と言っても第4章だろう。副題は「創られる神話」。その中で大西氏は次のように述べている。
プリマスにまつわるさまざまな神話が歴史的事実に沿っていないといって神話を否定することは、事実と突き合わせれば容易に明らかにできることであり、それ自体に大きな意味があるとは思えない。むしろ、なぜ神話化されたのか、あるいは、そうしたさまざまな神話を作り出していく過程でどのような力が作用していたのか、または自覚的にどのような意図があってそうした神話ができあがってきたのか、こういった問題を分析するところから、その神話を必要とする文化そのものがわかってくるのだ。
本書を読むことで、どうして米国が、最先端の科学技術を持ち、この分野をけん引しつつも、あれほど宗教的であり、時には狂信的とすら思える言動が当たり前のように行われるのか、その根幹にある思想を汲み出すことができるだろう。そこで得られる答えは、私たちがテレビやニュースで太平洋の向こうから届けられる「米国での出来事」に透けて見えることであろう。本書ではその最も卑近な例として「感謝祭」の祝い方を取り上げている。私はこの箇所を読み、なぜかほほ笑ましい気持ちにさせられた。どうしてあれほどまでに七面鳥にこだわるか、また家族で過ごすことにこだわるか、その原因の一端を垣間見たからである。
今回取り上げた2冊は、16世紀から18世紀にかけて大西洋で隔てられた両世界の連関を示す好著である。時間がある方なら一気読みも可能な分量(219ページと188ページ)である。
折しも日が次第に短くなり、部屋を暖かくして籠りがちになる季節である。この時だからこそ、読書を通して、英国から米国への歴史を概観し、キリスト者の深化の旅を楽しんでみてはいかがだろうか?
■ 岩井淳著『千年王国を夢見た革命 17世紀英米のピューリタン』(講談社選書メチエ、1995年)
■ 大西直樹著『ピルグリム・ファーザーズという神話 作られた「アメリカ建国」』(講談社選書メチエ、1998年)
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