2016年9月、私は4度目のアトスを目指した。今回は、以前訪れたヴァドペディ修道院の祭日の取材を目的に短期間で約1週間の巡礼をしてきた。
この時から2年前に、ちょうどこの9月という時期に初めてアトスの地に足を踏み入れたことを思い出す。その時にヴァドペディ修道院へ行った際は、修道士たちの祈り以外の時間の仕事について書かせていただいたと思う。
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イコンや縫製係、玉ネギをむく修道士たちの姿、そして祭日のためにパンや魚を切っている姿などをお伝えさせていただいたが、前回は日程の関係でその祭日を取材することができなかった。今回はまさにその祭日の取材を目的としていたのだ。また、そこの修道院長から仕事について深く考えさせられ、ここでの祭日で修道院長はどのような姿をしているのか、興味があったことも事実である。
同じように、テッサロニキからウラノーポリを目指し、そこで1泊。翌朝の船でアトスの玄関口ダフニ港を目指した。
今回はアトスの玄関口でもあるダフニ港について、詳しく書かせていただく。2時間半のアトス半島西側エリアの航路であるが、その間には、ドヒアリウ修道院、クセノフォンドス修道院、パンデレイモン修道院と続き、ついにダフニ港に到着するのである。
港へ船が着くと、右側に乗船券を買う場所と税関があり、これからアトスを出る巡礼者たちが並んで船を待っている。そこで一人一人荷物検査を受け、アトスを出ることを許されるのである。
今日入るほとんどの巡礼者は、港の左奥に用意されている大きなバスに乗り、首都カリエを目指す。知り合いの修道士と待ち合わせて、各修道院やケリへと向かう巡礼者も数人いる。
降りて初めに目につくのは、お土産物屋である。2軒並び、それぞれ同じような物を販売している。右側の店は、アトスのワインや地図、十字架のアクセサリー、イコンなど、きれいに陳列されている。左側の店は、少し古く、書籍などが多く、生活用品も購入ができるが、かなりホコリっぽい雰囲気である。
お土産物屋の隣には、テラス付きのカフェが1軒、こちらは船を待つ巡礼者たちでガヤガヤと盛り上がっている。レチーナというワインやビールを飲んで地中海を眺めながら船を待つ巡礼者の姿が多く見られる。他にもスパナコピタ(ホウレン草のパイ包み)やドーナツ、ソフトドリンク、品揃えもそれなりに良く、腹をすかせた巡礼者たちが床にポロポロと落としながら食べている姿が目につく。
そこへ、どこからともなく、子猫たちがその落ちた物をあやかりに鳴きながら近づいて来るのである。ここアトスでは、唯一繁殖が許されている動物であり、皆、子猫を見るとなんか不思議と健やかな表情になる。自ら餌をあげる巡礼者もいるほどだ。
カフェの横には、警察署があり、数人の署員が抑止力のために見張りをしているのである。アトス内には、このように警察署が数カ所存在し、事件が起きないように配置されているのである。特にメギスティス・ラヴラ修道院の目の前に1軒派出所みたいなものがあり、そこの署員は聖堂に祈りに来るほどである。
税関の横に小道が1本あり、そこを行くと1軒の商店がある。そこでは、主に食料品が売られ、魚から肉、野菜、酒、日用品なども置かれ、恐らく、アトスにいる労働者たち、ケリに住む修道士たちのために開かれている。
そこの突き当たりを右に曲がると、海を目の前に公衆便所がある。恐らく世界で一番波打ち際にあるトイレでないかと思うほど海の目の前で、用を足した後は素晴らしい眺めに清々しささえ覚えるほどである。
われわれは、ダフニ港へ到着した。左奥の大きなバスへ乗り込み、いつものように首都カリエを目指した。
このダフニ港へ入ると、いよいよ修道院での生活が始まるなという気合があらためて入る場ともなる。そして、何が起きるか分からないという不安とそれ以上に期待を持って船を降りることになる。
次回予告(7月22日配信予定)
現在開催されている日本外国特派員協会での展示についてお知らせいたします。
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