復活祭を終え、4月24日月曜日、1日限りでアトスの展示と講演会が行われた。
日本ギリシャ協会(横山進一会長)主催で大妻女子大学比較文化学部のご協力の下、この日、日本ギリシャ協会会員、大妻女子大学の学生、教職員を中心に駐日ギリシャ大使はじめ大使館員、外務省関係者他、一般参加者も含め総勢約70人が大妻女子大学千代田キャンパスに集まった。
講演は東京復活大聖堂(ニコライ堂)司祭パウエル中西裕一による、「ギリシャ正教の聖地、世界遺産アトスを訪ねて―中西裕人写真展に見る修道士たちの心と暮らし―」と題し、私の写真も十数点並べられ、歓談も含め、約1時間半にわたって行われた。
2015年にキヤノンギャラリー、京都ハリストス正教会で開催された展示写真を紹介しながら、正教における人間観、20年にわたるアトスでの体験から、修道士そのものの人間観、自分の体験談などを織り交ぜ、時折、実際に修道士が歌う聖歌を流したり、シマンドロ(版木)の音色を聴かせたり、映像なども取り入れながら、講演は進められた。
その中で、パウエル中西裕一司祭は正教の人間観に触れつつ、正教信仰の神髄を説いた。すなわち「人は『神のイメージ(像・エイコーン)』を持って生まれ、初めは神に近い存在であったが、自由意思を持つことから、次第に罪を犯し、神から遠ざかる。しかし、洗礼を受けて神に向かう生活を始めると、神から与えられた『神のイメージ』を模範として、神の力を借りて、次第に神にふさわしい存在へと、神に『肖(に)』ていくことができる。模範たる神にふさわしい自己を『回復』する道行きが、正教信仰の中心である」と話した。
また、最後に、メテオラの修道院の巡礼者の姿が紹介され、遠方に暮らす子どもたちのために祈りをささげに来た母の姿が映像で流された。司祭は正教の祈りの基本は「人のために祈るということである。その人を思い起こす祈りを正教では『記憶』と呼び、常にどこかで誰かが自分以外の人を記憶していれば、祈りのネットワークがつながり続ける。これが聖書にある戒めである『絶えず祈れ』を実現する」と語り、正教の祈りの本質について触れた。
大妻女子大学の学生たちも興味深く講義を聞き、中西司祭は、学生たちに「こうした隔絶の地で、生活し、生涯をそこで終える修道士たちの生きざまから、祈りとは何かについて知ってもらうことが大切であること」を強調した。
展示は、この日限りで行われたが、参加者たちは、見たことのない風景を、食い入るように見ていた。特に女性からは、一生見ることのない景色であるため、貴重な体験をしたという声が多かった。また、食事の話や修道士たちの身なりについての生活面の質問も多くあがった。
講演には、開催前から大変興味をお持ちになられていたルカス・カラツォリス駐日ギリシャ大使とディオニシオス・プロトパパス参事官も参加され、熱心に講演を聞かれ、写真展示も見られた。カラツォリス大使自身もアトスを訪れたことも当然あり、懐かしそうに、そして優しい眼差しで写真を見ていたのがとても印象的であった。
今回の講演、写真展示を通して、特に現役の学生さんたちには、そこで生きる修道士の姿から、正教の祈りというものは一体どのようなものなのか、また、この聖地での祈りとは、それぞれ自由に生活を選ぶことができ、単に厳しい修行だけではないということを知ってもらえたらと思っていた。中世から続く原始キリストの祈りが絶えず今に残る、この美しきアトスの地に、少しでも興味を持ってもらえたらと思う。
9月に新たな作品の展示開催を予定しており、そこでは、正教の祈りの基本である、「人のために祈るということである」という司祭の言葉にもあったように、「記憶」というテーマで作品をまとめている。
今回の参加者、また、学生さんたちにもぜひ観覧いただき、これからの学生生活や社会生活の中で、何か少しでも役立ててもらえたらと思っています。
(撮影:中西裕人)
今後の展示のご案内
2017年7月1日~8月4日
中西裕人写真展
会場:FCCJ(日本外国特派員協会)メインバー
2017年9月7日~
中西裕人写真展
キヤノンギャラリー銀座 9月7~13日
キヤノンギャラリー名古屋 9月28日~10月4日
キヤノンギャラリー福岡 10月12~24日
※詳細は追ってご連絡させていただきます。
次回配信予定(5月27日)
シモノスペトラ修道院後半です。お楽しみに。
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