台北の新北市にオフィスを構える台湾・中華基督教救助協会(以下、救助協会)には80人近いスタッフが所属し、災害支援やフードバンクだけではなく、児童福祉にも取り組んでいる。
救助協会の児童福祉の取り組みは、フードバンクと同様、地域の教会が中心になって行う。そうすることで信頼と安心が定着し、地域の福音化につながるのだ。そのため、台湾の教会は決して敷居が高くないという。
まず、台中市のある大きな教会を訪ねた。この教会は、フードバンクの物資を一時的に運び込む拠点にもなっている。
教会の2階へ上がると、子どもたちの明るい声が聞こえてきた。放課後に子どもたちを教会で預かっているという。目の前にある小学校からすぐ来られるので安心だ。
集まっているのは、複雑な家庭事情を抱える子どもが多いという。片親や、両親がいないので祖父母に育てられている子ども。所得の低い世帯。また台湾では、東南アジアから移住した女性と結婚する男性が多く、子どもが中国語をうまく話せずに育つケースもある。
教会では宿題を見てあげるだけでなく、さまざまなニーズに応えられる支援体制が確立している。学校から子どもたちの情報が提供され、児童福祉にも役立てられているという。その結果、教会の児童館が成立するのだ。
小学生の低学年と高学年に分かれた部屋でそれぞれ食事をしていた。「将来の夢はドラマーになること」と小学3年生の女の子が話してくれた。
この教会では10人前後の子どもたちを常時迎え入れている。牧師は週に1度、聖書物語を分かりやすく話すが、聖書の教えを通じて健全な人格を形成し、品格を身に付けさせたいという。親から躾(しつけ)や愛情を受けられない子どもたちのために、勉強以外の教育も欠かすことはできない。
牧師は次のように語る。「この子たちには、社会で役立つ大人になってほしい。貧困から抜け出し、品格や健全さを身に付け、自信を持って生きてほしい。ここで子どもたちが受けた愛は、大きな糧となることだろう。教会へつながり、神様を信じてくれれば、それも嬉しい」
続いて、車で20分の距離にある立新教会に到着した。前回、フードバンクの記事でも紹介した王(ワン)牧師の教会だ。
記者が日本人だと分かると、高齢の女性が、「わたくしは日本の教育を受けました。お目にかかれて光栄でございます」と、驚くほど流暢(りゅうちょう)な日本語で話し掛けられた。
台湾はアジアの中で最も日本に親近感を持つ国として有名だ。町中でも頻繁に日本語の文字を目にする。ラジオからは、今ブームだという日本語の歌謡曲が流れていた。
ここも小学校がすぐ近くにあり、教会の2階を子どもたちに開放していた。牧師夫人が勉強を教えており、子どもたちは「ニーハオ」と大きな声で記者にあいさつしてくれた。
この児童福祉の働きは12年間続き、中学生に対しては個性を重視し、才能にも注目していく。そして、人格形成と思春期の人間関係を整える助けも行っている。それは最終的に親子関係のケアに至るという。
教会員が子どもたちに宿題や勉強をする助けをしながら、聖書的な人格や品性についても教えている。彼らは、救助協会で訓練を受けてこうした現場に立っている。常に子どもたちの様子を見守り、子どもたちは分からないことがあれば、すぐにその先生に相談できるようになっている。
この働きは塾ではないので、成績を上げるためのものではない。寄り添い、共有し、子どもたちの命を守る活動なのだ。
子どもたちが「コンニチハ」と日本語で話し掛けてきた。「なぜ話せるの」と聞くと、教会にいる日本人の協力宣教師に教えてもらったと得意げに話す。満面の笑みで、かわいらしい小学生だ。
王牧師は言う。「心のケアが大切です。子どもたちに自信を取り戻してほしい。将来は自立して暮らせることを望みます。何よりキリストの良き弟子になってほしい。私は彼らのことを自分の家族、子どもだと思って接しています」
救助協会は、「大宣教命令」と「隣人愛」の教えを忠実に守る団体だ。教会は自発的に地元に関心を持ち、弱い立場の人のニーズに応えていくという。
救助協会と地域の教会は常に協力を続けている。そして、この働きを牧師だけが行うのではなく、教会全体で取り組んでいる。牧師も、「○○教会の牧師」ではなく、「○○市(地域)の牧師」となることを目指している。率先して自治会と交流を深める。そして、共通認識(価値観)を大切にするのだ。