「日ごとの糧」の利用に気候変動がどんな被害をもたらすのか
「日用(日ごと)の糧を今日も与えたまえ(お与えください)」とは、主の祈りに出てくる言葉だが、気候変動は現在そして未来の食糧に対する需要を満たす上で、深刻な問題をもたらすと、世界教会協議会(WCC)が9日、公式サイトで警告した。
WCCによると、「最も貧しい社会が、地球上で最もカーボン・フットプリント(炭素の足跡=二酸化炭素の排出量)が少ないにもかかわらず、気候変動の最も大きな被害に直面している。長年にわたり、食糧に対する権利は、気候変動をめぐる交渉に携わる多くの締約国や教会、そしてエキュメニカルな代表者たちにとって、鍵となる問題かつ優先課題となってきた」という。
しかし、現在パリで行われている国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で交渉中の気候変動に関する合意は、農業について触れておらず、それが最後の段階で付け加えられる可能性はない。
「食糧安全保障が合意案で具体的に触れられていないのは残念なことだ」と、WCCやルーテル世界連盟の加盟教会などがつくる国際的な緊急支援・政策提言組織「ACTアライアンス」をCOP21で率いるマティアス・ソーデルベルグ氏(「デンマーク教会援助」上級政策提言顧問)は語った。
「もし私たちが気候変動を制限しなければ、海面上昇の可能性は、将来、低地の沿岸地帯や島々の浸水という結果にもつながる。低地で生活している社会の暮らしが脅かされ、漁業の機会を危うくし、生産力のある農地の喪失や海水の浸入も伴う」と、WCCのエキュメニカル・アドボカシー・アライアンス(EAA)のコーディネーターであるマノジ・クリアン博士は述べた。
「私たちが最初に死ぬ。あなた方はそれに続く」ポリネシアの大主教、海面上昇を語る
しかし、アングリカン・コミュニオン・ニュース・サービス(ACNS)が先月27日にニュージーランドの聖公会ニュースメディア「アングリカン・タオンガ」からのニュースとして伝えたところによると、トンガ生まれでフィジー在住の聖公会ポリネシア大主教であるウィンストン・ハラプア博士は、COP21が始まる前に、先進国の政府間交渉担当者たちがその会議を「いつものこと」だと扱わないよう祈っていると述べた。「なぜなら、いつものこと(とみなせばそれは)私たちをみな滅ぼすことになるからだ」
「私が言いたいのは、そう、(ここ太平洋にいる)私たちが最初に死ぬということ。けれども、自分たちは大丈夫だと思っている他の人たちは、自分たち自身をだましているのだ。彼らは大丈夫ではいられないだろう。私たちはこの世を愛しているのだから」とハラプア博士。「そして私たちはあなた方を愛しているから、私たちはこう言っているのだ。『あなた方の生き方を変えてください』と」
「罪もない人たちが先に死ぬ。力のない人たちが先に死ぬ。・・・そして力のない人たちの声は、『私はみんなを大切にする』と言う」とハラプア博士は語った。
同博士の故郷であるトンガ王国のように、太平洋の海抜が低い島々の多くは、「海水はもうすでにひざまで来ている・・・そしてそれは上昇し続けている」。
「私たちは今、加害者たちが決心するのを待っている。なぜなら私たちはすでに被害者だから・・・そして彼ら、加害者たちは、選択をしなければならない。私が本気で加害者たちに言っているのは、終わりなき経済成長の追求・・・それは間違った生活だということだ」と、ハラプア博士は述べた。
「私たちは死んでいくから―でも彼らが次に死ぬだろう」とハラプア博士。「止まらない気候変動の中での私の疑問は、彼らが言っている経済成長とは何のためなのか? それは誰の利益のためなのか? ということだ」
WCC総幹事が語る「希望のメッセージ」
WCC総幹事のオラフ・フィクセ・トヴェイト牧師・博士は8日、COP21の閣僚級会合で150人を超えるさまざまな宗教者を代表して演説し、「私たちはあなた方が、人間が持つ最も優れた創造性と能力を示すことによって、この世界に奉仕してくださると信じています」と述べた。
「気候変動の影響による被害を今日受けている、そして明日も受けるであろう世界中の人々は、世界の二酸化炭素排出量の削減にあなた方が大きな貢献をしてくださるだろうという希望を、そして希望に対する権利を持っているのです」と、トヴェイト総幹事は語った。
トヴェイト総幹事の希望のメッセージはまた、世界中で変革がすでに起きていることを認知するものであった。
「多くの人々が地球を守るために自らの優先順位や生活様式を変えつつある。物理的ないし象徴的に、気候変動における正義と平和の巡礼を私たちと共にしている人たちはたくさんいるのです」
トヴェイト総幹事は演説を続け、金融やビジネス部門の多くの人々が投資や慣行を変えつつあり、脱炭素化、再生可能エネルギー、そして生産や輸送の新しい方法に向かいつつあることを伝えた。
「グリーンな転換はすでに起きています。私たちはみなそれに続かなければなりません。次の世代は私たちにかかっているのです」とトヴェイト総幹事は結んだ。
内村鑑三と自然エネルギーは今
日本では、キリスト教指導者・内村鑑三が、100年以上前に行った講演「デンマルク国の話 信仰と樹木とをもって国を救いし話」(『後世への最大遺物・デンマルク国の話』岩波文庫、2011年)で、「エネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤(なみ)にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります」などと説いている。
クリスチャンで風力発電などの自然エネルギーの研究で知られる牛山泉博士(足利工業大学学長)は、この演説に言及しつつ、エネルギーを狩猟採集型から栽培型へと転換することを主張している。また、牛山氏が監修し3月に出版された斉藤道子著の絵本『風くんと電気ちゃんの大ぼうけん』(ポプラ社、2015年)は、風力発電の仕組みについて、子どもにも分かりやすく書かれている。
創造主に対して悔い改めつつ福音を信じ、神の恵みを生かす生き方と政策が、今こそあらためて問われている。