『自然エネルギーを考えるための環境文化・宗教文化: 技術と思想が出会う未来を模索する』という本が、アマゾン・ジャパンのKindle版(電子書籍)としてこのほど出版された。これは、クリスチャンで風力発電などの自然エネルギーの研究で知られる牛山泉博士(足利工業大学学長)と、神学者の小原克博教授(同志社大学神学部)によって昨年11月に同志社大学で行われたシンポジウムの記録で、その録画はユーチューブでも観ることができる(記事下に動画)。
シンポジウムで行われた牛山氏の講演では、キリスト教の指導者・内村鑑三が100年以上前に行った講演「デンマルク国の話 信仰と樹木とをもって国を救いし話」(『後世への最大遺物・デンマルク国の話』岩波文庫、2011年)がふれられている。その中で内村は、「エネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤(なみ)にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります」などと説いている。
その一方で、自然エネルギーの利用や省エネの動きは、実際にも教会やキリスト教団体などで拡がりつつある。
最近の事例では、カトリック世田谷教会(東京都世田谷区)に昨年6月18日、市民の協同により設営された「カリタス下北沢 市民共同発電所」がある。同教会の信徒会館の屋根に設置された太陽光パネルを使ったソーラー発電所で、10.01kwの発電能力を持つという。
他に太陽光発電設備を採り入れた事例としては、2000年に新会堂が建てられ、いわゆるエコチャーチとしては先駆的と言われながらも東日本大震災による津波で被災した日本基督教団新生釜石教会(岩手県)や、同教団の西宮公同教会、神和教会(兵庫県)、周防教会、防府教会(山口県)、福山東教会(広島県)、湧谷教会(宮城県)、そして、日本アライアンス教団名古屋キリスト教会(愛知県)とその南信州チャペル(長野県)、聖母訪問会三浦修道院(神奈川県)、日本バプテスト連盟嬉野キリスト教会(佐賀県)、セブンスデー・アドベンチスト教会鹿児島キリスト教会(鹿児島県)、富士山YMCAグローバル・エコ・ヴィレッジの宿泊棟(静岡県)、エコキャンパスをもつキリスト教主義大学ではフェリス女学院大学、関西学院大学、恵泉女学園大学、さらに社会福祉法人ではふじの園(岩手県)などがある。
もう一つ大きな拡がりを見せているのが、OMソーラーと呼ばれる太陽熱利用システムだ。株式会社OMソーラーの資料によると、これを採り入れているところには、日本基督教団仙台東一番町教会(宮城県)、同教団の東北教区センター(宮城県)、南三鷹教会フィッシャー幼稚園や西新井教会教育館(東京都)、日本ナザレン教団学園教会ウィリアムエコール記念会堂(千葉県)、カトリック秋津教会信徒会館(東京都)、武蔵野泉教会(東京都)、聖心女子学院第2体育館(東京都)、聖ヨハネ会桜町病院ホスピス棟(東京都)、日本聖公会ポール・ラッシュ記念館(山梨県)、インマヌエル浜松キリスト教会(静岡県)などが含まれるという。
牛山氏の著書『風力発電の歴史』(オーム社、2013年)によれば、風力発電の創始者とされるデンマークのポール・ラクールは非常に信仰深いクリスチャンであったという。だが、小型風力発電機を採り入れた事例は、日本では新生釜石教会や函館三育小学校(北海道)などで、太陽光や太陽熱に比べるとまだ少ない。三浦修道院も小型風力発電機を採り入れたが、その後使用を中止した。
なお、函館三育小学校では、森林バイオマスを利用したペレットストーブも設置されているという。
一方、省エネルギーの動きもある。聖路加国際病院(東京都)では、地球温暖化対策として省エネルギー・省資源に努め、地下2階に地域冷暖房と組み合わさったガスエンジン・コジェネレーション・システム(930kw)を備えているという。また、日本聖泉キリスト教会連合巣鴨聖泉キリスト教会(東京都)では、断熱効果やヒートアイランド現象の低減を期待して、教会の屋上緑化を行っている。そして神木イエス・キリスト教会青葉チャペル(神奈川県)では、雨水や自然光の利用、外断熱を採用している。
これらの実践がもつ意味や動機は、必ずしも同じではない。また、世界的にみてもこうした取り組みはまだ部分的なものにとどまっている。しかし、原発や地球温暖化などとの関連で代替エネルギーに対する関心が根強い今、それらを今後どのように展開していくのかが新たな課題となっている。
■ 公開シンポジウム「自然エネルギーを考えるための環境文化・宗教文化──技術と思想が出会う未来を模索する」