ロシア正教会の指導者であるキリル総主教は、不安定なウクライナ情勢について述べ、「我々の教会がとってきた立場は、―そしてこれは過去25年間にわたって変わることがなかったのだがー、我々の教会はいかなる政治的誘惑にも決して屈することがなければ、いかなる者の政治的利益にも決して資することもないということだ」と述べた。ウクライナ宗教情報サービス(RISU)が1日、カトリック・ワールド・ニュースの報道をもとに伝えた。
「我々の原則的立場は、教会は戦いを超えたところにとどまらなければならないということだ」と、モスクワの総主教であるキリル1世は、4月30日に教会指導者たちに対する見解の中で述べた。「それは平和を維持する潜在的な可能性を保持しなければならない。平和を維持する潜在的な可能性などもはやないと誰もが考えている時であってもだ」
ロシアのインターファックス通信によると、「我々は魂を気遣う牧会的な働きを行い、人々を和解させなければならない」と同総主教は述べたという。「しかし我々はいかなる場合においてもいかなる政治的見解や立場ないし概念に資することがあってはならない。その場合、教会は、戦いを超えたところにとどまり、平和を維持する潜在的な可能性を保持することができるだろう」
ロイター通信のガブリエラ・バクジンスカ氏は、元KGBの役人であったプーチン大統領が2012年に第3期目の大統領の職に復帰し、社会問題についてより保守的な姿勢をとるようになって以来、キリル総主教がますます親密な絆を育んできたとしている。
ロシア正教会に対する批評家たちは、それが外交上を含めたプーチンのための事実上の政府機関としての役目を果たしており、そのような政治的な関与は失敗になりかねないと警告してきた。
ロシア正教会は、旧ソビエトの領域を再統一しようというプーチンの攻勢と結びついている一方、ロシアやその他の旧ソ連の諸共和国内にいる1億6500万人の教会員に多大な影響力を及ぼしている。
しかし、ロシア正教会が3日付の公式ウェブページで伝えたところによると、キリル総主教はその一方で、ウクライナ東部のオデッサ州で数十人が焼き殺されたことに哀悼の意を表し、ウクライナにおける暴力の使用をやめるよう、平和を呼びかけた。
また3日には、「ウクライナにおける市民の反対が新たに激化しつつあることに関する声明文」を発表した。
声明でキリル総主教は、「ウクライナで血が再び流されている。ドネツク地域における衝突やオデッサにおける悲劇的な出来事は何十人もの人々の死や、同国の情勢がさらに不安定になる結果へとつながった。多くの人々が絶望し、自分の命や愛する人たちの命を心配している」と述べた。
「ウクライナに対する私の心が最も困難な時にある今、苦しみや悲しみ、怒り、驚きや絶望を体験しているその国民とともに、私は流血の犠牲者たち全員が安らかに眠るよう祈るとともに、犠牲者の命が助かるように、また負傷者の急速な回復のためにも祈る」「流血や暴力が永遠になくなるように」
一方、キリル総主教は、「今起きていることに対する責任は、まずもって、対話よりもむしろ暴力に依拠する人たちにある。特に問題なのは、市民が重装備で武装し対立していることだ。実力行使の理由は、政治的な急進主義への関与や、信条の表現に対する市民の権利の否定にある」と指摘する。
キリル総主教はまた、「自分たちの視点を力づくで採用しようとすることはきっぱりと放棄すべきだと確信している。すべての当事者たちに、武器の使用をやめ、全ての問題を交渉を通じて解決するよう呼びかける。短期的には、ウクライナには少なくとも停戦が必要だ」と述べた。
その上で同総主教は、「対話に代わる策はない。お互いに聞き、現在の矛盾を解決するだけでなく、ウクライナの国民を形作り、その知恵を豊かにしてきたキリスト教の霊的・道義的価値に対する忠実さを新たにすることはなおも可能なのだ。信じてほしい。平和と正義への道を見出すのはこれらの価値なのであり、それはきちんとした未来なしには考えられない」と述べた。