11月の米大統領選に向けた民主党の候補者を選ぶオンライン投票が5日に締め切られ、カマラ・ハリス副大統領が99パーセントの支持を獲得し、候補者指名を確実にした。高齢不安が一気に高まったことで、再選を目指していたジョー・バイデン大統領が投開票日まで4カ月を切る中、異例の撤退を表明。それから2週間余りで、ハリス氏が選ばれる形となった。
バイデン氏が撤退を表明し、後任候補としてハリス氏への支持を表明した7月21日、ハリス氏自身は、大統領選への出馬を表明するとともに、長年親交のあるエイモス・C・ブラウン牧師に電話し、祈りを求めていた。
米進歩派キリスト教誌「ソージャナーズ」(英語)によると、1976年からサンフランシスコ第三バプテスト教会を牧会しているブラウン牧師は、日曜日だったこの日、礼拝後にハリス氏から電話を受けた。ハリス氏はブラウン牧師に対し、「先生、私と夫のダグ、この国、そして私の大統領選立候補のために祈ってほしくて電話しました」と話したという。
ブラウン牧師は、経験豊かな公民権運動家で、アフリカ系米国人コミュニティーで影響力を持つ。電話では、米国史上初の女性大統領になる可能性が出てきたハリス氏に対し、自身のお気に入りの聖書の一節であるミカ書6章8節から、「正義を行い、慈しみを愛し、へりくだって神と共に歩む」ように促したという。
2人は20年以上の親交があるとされ、ハリス氏はスピーチの中でそれを公に認めている。
一方、ハリス氏の宗教的・文化的背景は一様ではない。母親はヒンズー教徒で、父親はバプテスト派のキリスト教徒だ。米ナショナル・カトリック・レジスター紙(英語)によると、ペンシルベニア大学のアンシア・バトラー教授(宗教学)は次のように述べている。
「彼女は多くの米国人の宗教的な物語を代表しています。というのも、米国では、もう宗教において一直線に成長する人はいないからです」
その上でバトラー氏は、米国では多くの場合、個々人が自分自身の宗教的アイデンティティーを自ら選択しており、異宗教間の結婚をしたり、異なる宗教的背景を持つパートナーをサポートしたりする中で、それが変化していく可能性があると述べている。
このダイナミズムは、2019年にインド系移民2世でヒンズー教徒のウーシャさんと結婚した後、プロテスタントから無神論、そしてカトリックへと転向した共和党の副大統領候補であるJ・D・バンス上院議員にも見られる(関連記事:トランプ氏が副大統領候補に選んだバンス氏とは? 5年前に受洗、その信仰の歩み)。共和党の全国大会で、ウーシャさんはインドの菜食主義をバンス氏がどのように受け入れていったかを語り、一方のバンス氏はウーシャさんの影響でカトリック信仰への傾倒が深まったと語った。
ハリス氏に対しては、これまでに幾人かの宗教指導者が支持を表明している。
ハリス氏と30年以上の付き合いがあるフレデリック・D・ヘインズ3世牧師(フレンドシップ・ウェスト・バプテスト教会)は、「イエスと正義は共にある」というハリス氏の理解を称賛している。
ハリス氏の長年の支持者であり、黒人教会政治運動委員会の共同設立者であるマイケル・マクブライド牧師(ザ・ウェイ・クリスチャン・センター)は、ハリス氏の大統領選における勝利が、イスラエルとハマスの戦争終結につながることへの期待を表明した。
一方で、大統領選への出馬を表明したことにより、ハリス氏は過去の論争にも直面している。
米サンフランシスコ・クロニクル紙(英語)などによると、1990年代初頭、当時29歳だったハリス氏は、当時60歳でカリフォルニア州議会議長だったウィリー・ブラウン氏と不倫関係にあったという。ブラウン氏は、その10年以上前から妻と別居していたものの、既婚の身だった。
2人が交際中の94年、ブラウン氏は、カリフォルニア州の失業保険控訴委員と医療扶助委員という2つの重要なポストにハリス氏を任命し、政治家としてのキャリアをスタートする手助けをしたとされる。ブラウン氏は96年には、サンフランシスコ市長となっている。
しかしハリス氏は、汚職疑惑のためにブラウン氏とは距離を置こうとしてきた。2003年には米SFウィークリー紙のインタビューで、ブラウン氏のことを「私の首にぶら下がっているアホウドリ」と呼び、汚職があれば起訴されるだろうと述べている。