牧師の金子道仁議員が27日、キリスト教メディア関係者との懇談会を開き、政策提言として掲げる教育改革と福祉の活性化への取り組みについて、1年間の活動を報告した。「社会の破れ口を防ぐために、アガペの愛を持った者たちが外に向かって働きを広げていく。それを応援していくことが一つの大きな使命」とし、「神の国を広げていく、アガペの愛を外に広げていく働きを忠実にやっていきたい」と話した。
金子氏は東京大学法学部を卒業後、外務省に7年間勤務。その後献身し、1998年から兵庫県猪名川町にあるキリスト教会「グッド・サマリタン・チャーチ」の牧師を務めながら、23年にわたりチャーチスクールの運営に携わってきた。昨年7月の参院選比例選で初当選。全国のフリースクールや不登校児童・生徒への支援を拡充するために、「教育バウチャー制」の導入による多様な教育機会の確保を訴えてきた。
教育バウチャー制とは、子どものいる家庭に対し、教育に使用目的を限定したバウチャー(クーポン)を交付した上で、保護者や子どもが自由に学校を選択し、学校が集まったバウチャーの数に応じて政府から運営費を受け取る仕組み。金子氏が教育バウチャー制の導入を目指す背景には、全国的に拡大している不登校児童・生徒の急増、またキリスト教会が運営するチャーチスクールをはじめ、不登校児童・生徒の受け皿となっている全国のフリースクールなどが経営難にあえぐ現状がある。
教育機会確保法の改正に向け準備進める
この1年は、2016年に教育機会確保法の成立を推進した関係者から指南を受けつつ改正法案の準備を進め、所属する日本維新の会でも党内の勉強会を開き、ある程度の賛意を取り付けることができたと報告した。
文部科学省は8月末、教育課程にある程度の裁量が認められている、いわゆる「不登校特例校」の通称を「学びの多様化学校」に変更すると発表。現在は全国で30校弱にとどまるが、今後300校を目指すという目標を掲げた。
この不登校対策については、「目標とする300校を達成するために、既存のフリースクールが小規模でも学びの機会として認められる可能性を示さないといけない」と指摘。現在は文部科学省の省令により、通常の一条校と同じ学校設置基準で認可を検討している現状を見直すため、設置基準の緩和を条文に盛り込む改正法案を検討している。
教育バウチャー制については、財源のある東京都や大阪府で、すでに自治体独自の取り組みが先行している一方、全国にある小中高校の不登校児童・生徒数は2022年度の統計で過去最多の約30万人に上り、コロナ前の約2倍という増加の一途をたどっていると指摘。「財源のあるところだけで進んでおり、教育の地域格差が非常に広がってきている。今は教育バウチャー制を全国レベルで実施し、学習機会の確保のために多様な受け皿を広げていく時期に来ている」と法改正の必要性を強調した。
福祉活性化の取り組みは一般社団法人化目指す
福祉の活性化については、草の根の社会福祉活動を応援することを目的に進めてきた社会福祉連携推進活動の取り組みを報告。子ども食堂やフードバンク、里親や養子縁組といったさまざまな分野のセミナーを展開しながら、横のネットワークが徐々に広がりつつあるとし、「一般社団法人化していき、こつこつと働きを拡大していきたい」と意気込みを語った。
LGBT理解増進法に盛り込まれた3つの修正ポイント
一方、5月に法案が提出され、6月に成立・施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)に関する記者からの質問にも答え、法案成立の経緯とその内容に対する自身の見解について説明した。
法案成立の経緯については、「そもそもこの法案が本当に必要だったのかどうかに関していろいろな議論がある」としつつ、「事実としてこの法案は与党から出され、数の論理から見ればそのまま可決される流れであった。そうであれば、私たち野党としては、この法案をどのように修正するのか、現在社会に広がっているさまざまな懸念を踏まえて少しでも多くの修正を勝ち取っていく、そのようなスタンスでの対応であった」と説明した。
自身は「キリスト教の保守的な立場にある」とした上で、「今回の法案は、同性婚の問題ではなく、LGBTなど性的少数者の方々に対する理解を増やしていくということで与党から出されたもの。それについて、どう修正を加えていくかが今回の議論だった」とした。
日本維新の会が国民民主党と共同で提出した修正法案では、トイレや浴場などの公共の場における女性スペース確保の問題や、一部の教育現場でLGBT啓発がすでに行われている事実などを考慮し、与党案に対して3つの修正を提案したことを説明した。
第一は、措置の実施に当たって「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する」という条文(第12条)を新たに加えたこと。金子氏は、「いわゆる差別の乱用から女性や子どものスペースが守られるだけでなく、全ての国民の内心の自由、信仰の自由が互いに尊重されるよう留意した」と話した。
第二は、学校における教育・啓発については「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」(第6条、第10条)行うとしたこと。「言い換えれば、保護者の同意なしに子どもに啓発活動がなされないようになる」と説明した。
第三は、与党案にあった「民間の団体等の自発的な活動の促進」という箇所を削除したこと。金子氏は、「こうした特定の団体に対する補助金給付はなくなると理解している」と語った。
その上で、「特にキリスト教会の方々には、このような修正が加わっていることを理解していただいた上で、今は自治体レベルで基本計画が立てられている段階にあり、パブリックコメントとして計画立案に意見を言っていただき、しっかりと議論を継続していくことが重要」と話した。
教会を全ての人が安心して集える場にするために
最後に、「ここからは私の内心、信仰に関する内容で、政治家としての提言ではなく、クリスチャン、牧師として皆さんにお伝えしたいこと」とし、2つのことを話した。
まず、SNS上では、LGBTに関するコメントには一切反論しないというスタンスを取っていること。「今回の見解をフェイスブックに上げたところ、賛否両論が入り乱れました。クリスチャン同士のそのやりとりを見て、クリスチャンでない方々の目に、これが愛の行為として映るだろうかと考えたとき、このコメントが炎上していく様子を、まだイエス様を知らない方々に対して見せたくない、証しにはならないと思い、LGBTに関するコメントへの反論は一切しないことにしています」と説明した。
そしてもう一つは、「教会は、自分の生きる意味を探している全ての人々が安心して集うことのできる場所」ということだ。「LGBTの方々も安心して教会に来ていただけるようになること。全ての人が創造主に、イエス様に出会って、自分は何者なのか(アイデンティティー)を回復していただくことを願っています。私たちは皆罪人です。私の発信する情報が、LGBTの方々だけを排除するようなメッセージになることは、絶対にしたくありません」と語った。