夏の参院選を控え、日本維新の会の参院比例区第30支部長に就任した金子道仁(みちひと)牧師(52)。1998年に外務省を辞して以来、兵庫県猪名川町という人口3万人の町で教会の牧師を務め、不登校の児童・生徒を受け入れるチャーチスクールの働きや、高齢者介護や障がい者支援などの福祉の働きを草の根で実践してきた。なぜ今、牧師の立場から政治家を目指すのか。牧師仲間として長年親交のある本紙コラムニストの万代栄嗣牧師が対談し、その思いを語ってもらった。(第2回はこちら:教会は地方創生の鍵)
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子ども8人のビッグダディ
万代:金子先生と言ったらやっぱり、お子さんが8人もいるビッグダディですよね。先生のご家族のことや子育ての秘訣について教えてください。
金子:今は一番上が25歳、一番下が小学2年生です。2年前までは幼稚園児が必ずいたので、いなくなって本当に寂しくて、寂しくて。
万代:寂しい!?
金子:寂しいですね。実は、うちの子どもたちが里子をもらってほしいと。弟、妹がいない家族はちょっと寂しすぎると言い出していて。
万代:それは驚きですね。8人もいるのに、しかも子どもたちから言われるなんて。
金子:海外のクリスチャンの方は、結構里子を迎えますよね。日本では、思いを持っていても二の足を踏んでいる方が多いのは残念で、そのあたりの課題にも取り組んでいきたいです。現行の制度があまりにも複雑で、みんなどうしたらいいか分からない。例えば、お子さんが2人いる家庭で、もう1人は里子でという選択がもっと身近にあってもいい。あとは教会のコミュニティーがサポートして、「今日は子ども預かるよ」とか、お母さんたちが旅行に行きたかったら「私たち一泊二日入るよ」とか、そんな形で里親サポーターのような支援の輪があれば、教会ではもっと里親になるハードルが下がると思います。
万代:僕がいつも教会で話すのは、健全なマジョリティーがいないと、マイノリティーに対する愛や配慮っていうのは成り立たないということ。今日本で何が一番危機かといえば、健全なマジョリティーが喪失されていて、みんながマイノリティー意識、場合によってはみんなが被害者意識を持っていること。こういう社会は、実は末期的な社会で、教会が健全なマジョリティーを作っていくことを絶対に忘れてはいけない。社会には実際に、シングルマザーだったり、あるいは子どもがお年寄りの世話をしなければいけないヤングケアラーのような、本当に悲惨なことがいっぱいあるけれど、それをサポートしたり、本当に社会を変えていくためには、教会にこそ健全で幸せな家庭を持つマジョリティーが集まっていないといけないと思いますね。
チャーチスクールが子育てのベースに、子育て自体が恵み
金子:外務省時代に長女が生まれて、いざ保育園に行かせるときに、自分は本当に子育てができるのかな、この子がちゃんとイエス様を愛して大きくなっていけるんだろうかとすごく不安に襲われました。ちょうどその時に、うちの教会でチャーチスクールが始まりました。チャーチスクールって、大きな家族なんですよね。家族が集まりながら、みんなでお互いの子どもを育てていく。そのようなコミュニティーがあって、子ども8人を持つことができました。チャーチスクールが私にとって子育てのベースになっています。
先生がおっしゃるように、私たちの教会も名前が「グッド・サマリタン・チャーチ」(善きサマリア人の教会)で、まさに福祉系なのですが、福祉よりも先にチャーチスクールの働きがありました。チャーチスクールで、「受けるよりも与えるほうが幸い」という健全で聖書的な世界観を持った働き人が育てられ、今実際に福祉の働きを支えています。収穫というか、必要は社会に山ほどありますが、働き人が本当に足りない。そういう点でも、健全なクリスチャンをどれだけ教会が育てて、この社会に送り出していくか。教会はそういう教育の場として最適な場所ですし、社会にものすごくインパクトを与える可能性を秘めています。
それがなければ、私の場合8人は怖くてだめでしたね(笑)。でも不思議ですが、この前も上の4人が中高生のキャンプに行って、残り4人の子どもたちでも数は多いはずなのですが、家族の人数が減ってめちゃくちゃ寂しいんです。この感覚ってやっぱりおかしいよねって言いながら、みんなで笑っていました。
万代:でもその家族観って、実は日本のみんながどこかで求めていると思います。やっぱり人は一人では生きていけないし、人がいて幸せになるし、いっぱいいるほどやっぱり幸せになる。日本の人口はこのままいけば絶対に減っていくし、国力が落ちれば、当然今までのような豊かな最先端の国というイメージも失われて、寂しい未来予想しか立てられなくなってしまう。そういう中で、やっぱり子どもが多い方が幸せなんだよっていう一つの選択肢を打ち出してくれるのは、今の日本にとって必要なことだと思います。
金子:子ども1人を育てるのに、2千万円かかると言われています。それだと私の場合は1億6千万円かかる計算になりますが、そんなお金はないわけです。お金がかかるのはもちろん事実ですが、教育をただビジネス的に数値で考えるのではなく、もっと大事なことは、子育ては親に与えられた恵みであって、本当に楽しみであるということ。負担はあると思いますが、2千万円かかるなんて尻込みしないで、もっと与えられるということは、もっと育てられるということだと信じて、子育てに励んでもらいたいです。
万代:そうですよね。ばらばらに個別で費用を算出すると2千万円になるだけで、人が一緒にいて、人生や命の現場を重ね合わせていくと、そういうばらばらの経済負担とは違う経済原則になる。みんなが持っている人的資産を使って、子育て、あるいはどこかの習い事をさせる代わりに、教会のみんなが遊んでくれるとか、その中で音楽を習うとか、スポーツを一緒にやるとか、習い事一つにいくらかかるかなんていう世界とは全然違う計算が成り立ちますよね。
同じように、高齢の孤立された方に一人当たりいくらかかるか、お医者さんに行けば医療費がいくらか、介護費はいくらかなんて計算し出すと、これも大変なことになる。だから、先生が言っている全体のことが連動してくるし、個人個人の命の重なり合わせの中で、本当に生きたコミュニティーが教会中心にできてくると、違う経済原則になっていく。
金子:親が子育てをするというのは、それ自体すごい恵みだと思います。それが親の役割であり、親の幸せです。子どもと触れ合える時間というのは本当にあっという間に過ぎていってしまうので、今子育てをされている方は、今のうちにしっかりとお子さんと過ごしていただくのが何よりも大事だと思います。
妻からは「家族を悲しませたら、ただでは済まさない」
万代:立候補を決断されたときに、奥様の真喜先生はどんな反応でしたか。
金子:妻からは「牧師の奥さんにしかならないから」と言われて、それで牧師になると約束して結婚して、実際に外務省を辞めて牧師になったんです。だから、今回こういう働きに出ることについて、牧師であることは変わらないけれど、どうなんだって聞いたんです。そうしたら妻は、これは本当に主の働きであり、違う形の牧師の働きだから、それは主の働きとして認めるよと。ただし「家族を悲しませたら、ただでは済まさない」とだけは厳しく言われました(笑)。私にとってはすごくいい戒めです。神様があって、家族があって、その後に働きがあるというのは変わらないことなので、家族がどう思っているかはいつも大事にしながら、でも全力でやるつもりです。だから、今のところは大丈夫です(笑)。
息子が今一緒に動いてくれています。今年大学を卒業したばかりで、もともとは教会で福祉の働きに就く予定でしたが、巻き込む形になってしまいました。息子にとっても考えていなかったことで、主に砕かれる経験になっているようです。私にとっても、彼とこんなに長い時間一緒に過ごすことがなかったので、これも主の御心と受け止めています。親子で一緒にやることにはやっぱり難しさもありますが、息子にとっては、社会人に育てられる訓練の機会にもなっているようです。
万代:国会議員になったら、東京と兵庫を行き来することになりますが、具体的にどのような生活をイメージしていますか。
金子:週末には国会がないので、こちらに帰ってくるつもりです。週末の半分はグッド・サマリタン・チャーチで今までのように仕えて、残りの半分は、全国どこでも教会に仕える働きをさせていただければと考えています。教育や福祉に取り組む教会の応援に行ったり、必要であればメッセージをさせていただいたり、とにかく巡回をしていくイメージです。基本的に平日は東京にいて、少しでも多く法案の作成に取り組んでいきたいと考えています。
万代:これまでにも、信仰を資質の一つとして持っているクリスチャン議員の先生はいましたが、クリスチャンであり牧師であることを前面に掲げて、しかもその公言通りの働きをしますという人はいなかったと思います。その中で今回、金子先生が手を挙げたことはとても意味があると思います。
金子:私も国会議員に何人も友達がいますが、その中にも信仰を持つまで伝道しきれていない人たちがいます。機会が開かれるのであれば、国会議員の中にも福音を語っていきたいです。もう、コテコテでやったらいいと思います。週に1度祈祷会や礼拝をさせてもらって、来るなと言われたらやりませんが、いいよと言われる限りは牧師としてやらせていただきたいと思っています。