夏の参院選を控え、日本維新の会の参院比例区第30支部長に就任した金子道仁(みちひと)牧師(52)。1998年に外務省を辞して以来、兵庫県猪名川町という人口3万人の町で教会の牧師を務め、不登校の児童・生徒を受け入れるチャーチスクールの働きや、高齢者介護や障がい者支援などの福祉の働きを草の根で実践してきた。なぜ今、牧師の立場から政治家を目指すのか。牧師仲間として長年親交のある本紙コラムニストの万代栄嗣牧師が対談し、その思いを語ってもらった。
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日本のチャーチスクールを救いたい
万代:先生がチャーチスクールの働きでとても忙しいのを知っていただけに、立候補を決断したと聞いたときは正直驚きました。でも、チャーチスクールが忙しいのは変わらないですよね。
金子:私が抜けた分については、うちの娘やチャーチスクールの卒業生たちが戻ってきてくれて、何とか回っています。うちのスクールだけを見ると、今回の立候補にメリットはないのですが、他のチャーチスクールを見ると、今、何とかしなければならない緊急の課題があります。
チャーチスクールの働きは2000年ごろから全国の教会に広がって、多いときには全国に50ぐらいありましたが、今では40ほどに減少し、スクールが閉鎖されていく傾向にあります。それはある意味当然のことで、先生たちは、昼間はスクールで教えて、夜になったらコンビニ、お弁当屋さん、英会話教室、塾講師と何でもやりながら、自分たちの生活を支えなければならないのです。本当にそれはすごい献身だと仲間たちを見ていて思います。でも、それは微妙なバランスでかろうじて成り立っているもので、何かのきっかけで何か一つ外れるだけで、がたがたと崩れてしまう。そんな状況を見ながら、自分のスクールというよりも、日本のチャーチスクール、ひいては日本のクリスチャン教育がもう少し支えられていくような方法がないものかといつも思っています。
私たちは今、自分たちの教会で運営している「光の子どもクリスチャンスクール」の他に、広域通信制・単位制の相生(あいおい)学院と提携して私立高校のライセンスを取得し、相生学院高校の猪名川校としてもスクールを運営しています。そこで、北は北海道から南は沖縄まで、全国のチャーチスクール15校から高校生95人が集まって学んでいます。生徒が在籍すると、国から就学支援金が1人当たり年間30万円、100人とすると年間3千万円が相生学院に入っているのですが、それは一切私たちには流れてこなくて、(相生学院に支払う)授業料と相殺する形になっています。通信制の他の学校では、授業料としてその上にさらに上乗せして請求してくるところも多いので、チャーチスクールにすればそれでもメリットはあります。でも、それではチャーチスクールの永続性にはつながらない。
教育バウチャー制導入を議員立法で
じゃあどうすればいいかというと、一つは教育バウチャー制の導入。2016年に教育機会確保法という法律が議員立法で通りました。私たちチャーチスクールからすると、すごく大きな変化でした。それまでは、とにかく公立学校に子どもを戻せという方針が、戻さなくていい、ここでちゃんとやれば出席扱いにしてあげようというところまできました。
ただその時に、公立学校には籍があるだけで、実際はここですべて面倒を見ているのに、お金はすべて公立学校に行く。これは当然おかしいわけで、ちゃんと生徒の人数分、実際に面倒を見ているところにお金が入るべきだというのが教育バウチャー制です。
しかし、教育バウチャー制に関する法案が2019年に成立しかけて、最後に頓挫しました。私は、ぜひ議員立法でもう一度動かして、教育バウチャー制を何とか形にしたい。教育バウチャー制が導入されれば、例えば私たちの場合に当てはめると、10パーセントを相生学院高校・猪名川校の運営費としてもらって、あとの90パーセントは、教科指導を担っていただいている各チャーチスクールに回します。そうすれば、各チャーチスクールも恩恵を受けることができます。仮に10人いたとして、年間270万円が各チャーチスクールに入れば、それで各スクール1人の先生を支えることができる。他でも教会を居場所に新しく通信制高校をしたいと言えば、教会を拠点にどんどん教育の場を提供できる。そういう絵を今描いていて、これをぜひしたいと考えています。
「不登校の子がいたらとりあえず教会に相談」という社会認知に
万代:チャーチスクールって最近耳にはするし、頑張っている教会があるという話を何となく聞いている人は多いと思いますが、現状としては教える先生たちが皆さんボランティアでやっておられるというのが実態ですよね。夜は別の仕事をされていたり、あるいは家庭の主婦で経済的に少し余裕があったり、学生で時間はあるからとりあえず授業の一つを受け持っていたりとか。でも、現状ではフルタイムのスタッフ1人さえも十分に支えられないというのは死活問題ですね。
金子:そのような状況でもやってくださる第一世代がいて、それに加わりたいという第二世代が、今入ってこようとしている。各スクールで人手が足りない中、この人なら一緒にやっていけるし入ってほしいのに雇えない、とても自分と同じようなことは頼めない、というジレンマがもう始まっています。アガペの愛(無条件の愛)でやっている働きをつぶすなんてことはとんでもないし、私はむしろ、チャーチスクールが今の10倍ぐらいの生徒を受け入れられるようになれば、教会の働き人や神学校の生徒不足もずいぶん改善されるのではないかと思います。このような草の根の教育、特に教会がベースになっている働きをぜひ支えていきたい。
一方で、法律が通ってお金が入るとなった瞬間、利益だけを追求するような業者も多く参入してくるはずです。でも、多様な教育を認めるということの本来の趣旨は、ビジネスにはそぐわないものです。学校に行きにくい子だったり、小規模の学びを求めている子だったり、そういう子たちの居場所となるのは、私は教会だと思います。忍耐強く、期待をもって子どもたちを受け入れる。そういう人たちが場所を提供することで、多様な教育の機会が広がっていく。アガペの愛を持っている教会の人たちが「私たちが受け入れます」と手を挙げて、不登校の子がいたらとりあえず教会に相談すればいいという社会認知になってほしいと願っています。
何人いればチャーチスクールをできる?
万代:重要な働きだと思います。例えば、何人ぐらいの先生がいたら、何人ぐらいの規模のチャーチスクールをできますよとか、各教会に提案している具体的な目安はありますか。
金子:今、私たちが全国のチャーチスクールと提携しているのは高校教育です。高校教育に関しては、コロナのことで今回しみじみ思ったのは、教科指導、各教科の授業はオンラインでできるので、録画してアーカイブを作り、オンデマンドで好きな時に好きな授業を取れるようにすれば、先生がいなくても全国どこでも十分授業が受けられるということです。進路指導も、進路指導員1人がネットでつながればできる。あとは生徒指導、人格教育は教会が担える。ですから高校教育に関しては、例えば1人クラス担任がいれば、生徒10人ぐらいは見ていける。その1人を雇えば、あとは場所代を教会がサポートしていただければ十分できる。
万代:では、高校教育だけに絞るとだいぶハードルは下がるのですね。
金子:下がると思います。小学・中学教育でも教育バウチャー制が入ってきたら、これも同じようにハードルは下がる。ただ、小学校の特に低学年は、教科指導をすべてオンデマンドでというわけにはいきません。それでも、ホームスクーラーの方々で、小学校低学年なら親でも教えられるという方がおられます。教科面で横のつながりを持ちながら、どういうふうに教えていけばいいのかを確認し合っていける体制があれば大丈夫です。教会は施設面があるので、もう一つハードルは下がってくると思います。教会が、アガペの愛で愛されていることを子どもたちに伝える教育、さらにその先に、聖書的な世界観で子どもたちを教えていく教育を実践できれば、かなりの子たちが神様のために生きていきたい、あるいは神様の働きがしたいという働き人につながっていきます。
万代:国会では、先生が提言する教育バウチャー制に関して動いている議員の先生はいないのですか。
金子:2016年の教育機会確保法に携わった先生たちが、19年に法律を見直して改正すると言っていたのですが、結局は動きがなく、先生たちも現在ではだいぶ散らばってしまいました。私の提言は、確かに票にはならないかもしれませんが、神様はやもめや孤児、在留異国人、貧しい人をすごく見ておられるので、むしろそういったところを応援していくべきだと思っています。(続く)