先月取り上げたフィンランドの国会議員、パイビ・ラサネン氏の裁判が2月14日に終審したので、これの続報を伝えたい。
世界的に注目の高い裁判の審理が、1月24日と2月14日の2日間にわたって、ヘルシンキで行われた。被告として出廷したのは、現役の国会議員パイビ・ラサネン氏と、フィンランド福音ルーテル宣教教区(ELMDF)のユハナ・ポージョラ監督だ。
ことの発端は、2019年6月にヘルシンキで開催されたプライドパレード(LGBTQを推進する運動)に支持を表明し、公式パートナーとなってしまったフィンランド福音ルーテル教会(ELCF)に、同教会員で牧師の妻でもあるラサネン氏は、これを批判してSNS上に公開質問を投稿したことがきっかけだった(本件の経緯と本質論は、2月14日の当課題を参照)。
警察はこれを「性的少数者への憎悪をあおるものだ」として、ラサネン氏を捜査対象にした。捜査は、彼女のラジオでの発言や、教会向けに執筆した冊子にも及び、今回の裁判に至っている。ポージョラ監督は、彼女の冊子を出版した罪で告訴された。
法廷では「信教の自由」と「性的少数者の人権」が、対立する概念として高度に争われた。
刑事告訴される原因となったラサネン氏の発言は、いずれも特定の誰かやグループを、憎悪や嫌悪の対象とするものではない。それは「すべての人は罪人である」というキリスト教の正統教理の主張の延長線上に「同性愛行為もまた、聖書が言う罪である」と発信したにすぎないのだ。
検察側は「思想や信条を持つことは自由だが、それを表現する自由には制限がある」と主張した。
彼女は「私の信念は、すべての人は等しく価値あるものとして神に創られたということです。そして、同性愛者も他の人と同じように尊く、価値があるのです」と述べ、「罪は憎むが、罪人は愛する」とする聖書の主張に一貫して立った。
一方、検察の主張は「(行為と主体の)両者は切り離せない」として彼女を断罪した。
公判後、ラサネン氏はメディアに「結局、聖書の教えに基づいて、性倫理において何が罪であるかを表現できるかどうかがこの裁判の焦点なのです。表現することが許されないのであれば、信教の自由が侵害されます。信教の自由には、信仰する権利だけでなく、信仰を他人に教え、広め、配布する権利も含まれますから。検察の論理に従えば、信教の自由という点でこの国は、中国や北朝鮮と何ら変わりません」と述べ、「今こそ、キリスト教徒は信仰についてオープンになり、聖書のメッセージ、特に福音のメッセージを大胆に伝えるべき時です。これらの問題について沈黙すればするほど、言論と宗教の自由のための空間が狭くなってしまうのです」と続け、世界中のキリスト者らに励ましのエールを送った。
有罪となれば、最高で禁錮2年の実刑となるが、検察は、ネットから冊子を削除することと、120日分の収入の罰金を求めている。ラサネン氏側はこれを拒否し、無罪を訴えている。
彼女が有罪になるなら、今後フィンランドでは、キリスト教の正統教理が公に発言できない事態になりかねない。故にこの裁判の世界的な注目度は高いのだ。
6人の米国下院議員が、この裁判で信教の自由が侵害されていると主張する書簡を米国国際宗教自由委員会に送った。
また、冤罪によってトルコ当局に2年間逮捕監禁されていた米国人牧師のアンドリュー・ブランソン氏は、ラサネン氏への支持を表明し、2回目の公判の日に、1万4千以上の祈りの署名と励ましの書簡を送った。
ハンガリーでは、ラサネン支持を訴え、数百人がブタペストでデモを行うなど、大きな波紋が広がっている。
判決は3月末に言い渡される。
欧州のみならず、今後世界で、信教の自由がどこへ向かうのかを占う重要な裁判だ。この日、神の正しい裁きがなされるよう祈っていただきたい。
■ フィンランドの宗教人口
プロテスタント 83・3%
カトリック 0・2%
正教関係 1・1%
イスラム 0・6%
ユダヤ 0・02%